本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第10号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 SiCの材料物性は、Siに対して約3倍のバンドギャップ、約10倍の絶縁破壊電界強度、約3倍の熱伝導率を有している。SiCを用いる半導体素子は、Si半導体素子と比較して高耐圧化、低損失化、高温動作化に向いており、パワーデバイス用途として優れた特性をもっているため研究開発が進められてきた。本稿では近年活発になってきたSiCパワーデバイスの実用展開について紹介する。

 パワーエレクトロニクス機器のキーパーツであるパワーデバイスには、これまでシリコン(Si)半導体素子が用いられてきた。図1は、パワーエレクトロニクス機器におけるパワー密度の進展を示している。これまでは、パワーデバイスの進化に伴ってパワーエレクトロニクス機器の高パワー密度化が達成されてきたが、Siパワーデバイスの物理的性質に起因して、さらなる進展が困難となりつつある。このような状況において、材料物性から、Siパワーデバイスに比べて飛躍的な高性能化/低損失化が実現できるシリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)といったワイドバンドギャップ半導体が注目されている。

図1 パワーエレクトロニクス機器におけるパワー密度の進展
図1 パワーエレクトロニクス機器におけるパワー密度の進展
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 SiCパワーデバイスについては、現在、エアコンや数値制御装置対応ドライブユニット、太陽光発電システム向けパワーコンディショナ、そして鉄道車両用主回路システムといった実製品への適用が始まっており1~6)、パワーエレクトロニクス機器自体の大幅な省エネルギー化、さらにSiパワーデバイスでは適用が困難であった新規用途の開拓が期待されている。また、SiCパワーデバイスは、15kVを超える電圧領域でも素子単独で使用することができる。このような高電圧領域では、デバイスを低抵抗化するために電子と正孔による伝導度変調効果を利用したSiCバイポーラデバイスが一般的に用いられる。バイポーラデバイスとしては、スイッチング素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)†1や、整流素子であるpin(p-intrinsic-n)ダイオードなどの開発も進められている7)。本稿では、近年活発になってきたSiCパワーデバイスの実用化展開について紹介する。

†1 IGBT MOSFETのオン抵抗が高耐圧になると劣化する欠点とバイポーラトランジスタのスイッチング速度が遅い欠点を克服するために、MOSFETを入力側にバイポーラトランジスタを出力側に接続した構造にすることにより大電力を高速にスイッチングすることができるパワーデバイス。