本記事は、応用応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第10号に掲載された「放射光科学のための高精度X線ミラーの開発」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 放射光X線を利用した分析法は科学技術の発展に不可欠な役割を果たしており、その高度化には光源とその特性を引き出す光学素子の高性能化が大きく貢献している。ここでは、X線のナノ集光やナノイメージングに利用されるX線ミラーにおいて、求められる精度やその作製法、最新の光学系などについて概観する。

 X線は、1895年にW.C.Röntgenがその存在を発見して以来、基礎科学、医学、工学など幅広い分野において重要な役割を果たしている。特に物質科学、生命科学の分野では、その高い物質透過性や結晶・原子との相互作用が有効に利用され、ほかの方法では代替できない分析法を提供している。そして、1990年代にSPring-8などの第3世代の高輝度・低エミッタンス光源が利用可能となり、X線分析技術は飛躍的な高度化を遂げている。直近では、X線自由電子レーザー(XrayFree-Electron Laser: XFEL)によって完全空間コヒーレント極短パルスX線が実現し、X線利用技術は新たな時代を迎えつつある。これらの高輝度・低エミッタンス光源は、集光点での光子密度の増大に非常に有利である。

 このため、2000年以降、集光サイズの微小化競争が激化し、ゾーンプレート1,2)やレンズ3)、ミラー4,5)などのさまざまな光学素子によって100nm以下の集光が実現した。これらの光学素子の中で、ミラーには、集光効率の高さ、大きなワーキングディスタンス、色収差の小ささなどの観点から、ほかの光学素子を大きくしのぐ優位性がある。ただし、作製はほかの光学素子と比較にならないほど難しい。

 我々のグループは、精密加工・計測学の立場から、X線集光ミラーの開発に取り組み、反射X線からのスペックルノイズの除去4)、高精度非球面ミラーの設計と製作によるサブ50nm、サブ30nm集光5~7)、また、位相回復法に基づく波面誤差計測法とその場補償法8~10)の開発による世界最小のサブ10nm集光11)などを達成した。ここでは、コヒーレントX線を回折限界の条件で集光するために必要なミラーの精度や、その精度を実現する加工・計測技術に触れながら、日本のXFELであるSACLA(SPring-8 Angstrom CompactFree Electron Laser)のナノ集光や、結像光学素子への応用例を紹介したい。