本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第10号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 CMOS集積回路を搭載してその機能を積極的に生体の計測や生体刺激に利用する、新しいタイプの生体埋植マイクロエレクトロニクスデバイス研究について紹介する。CMOSチップを生体との界面に近づけて利用することで、多点電気刺激や接触型生体内イメージングなど、従来にない新しいアプリケーションを生みだすことができる。一方で、屈曲した組織への適合や、エレクトロニクスデバイスと生体組織を同時に保護する高機能パッケージングなど、独特の課題解決が必要となる。本稿では、筆者らの研究グループが開発したデバイスのデザイン・作製と機能実証について紹介しながら、生体埋植マイクロエレクトロニクスデバイス技術の課題について論じる。

 CMOS†1(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型MOS)に代表される半導体集積回路技術が、現代の最重要テクノロジーの1つであることは論をまたない。ムーアの法則として知られる集積回路プロセスの微細化と回路の大規模化は情報機器の高性能化と小型化をもたらし、通信ネットワークの高度化と相まって、我々の生活に欠かせないインフラストラクチャとなっている。

†1CMOS MOS 電界効果トランジスタ(MOS Field Effect Transistor:MOSFET)を基本素子とする集積回路技術のうち、1つのチップ上にNMOSとPMOSの両方を形成するプロセス。

 生体細胞より大幅に小さなトランジスタや配線構造を実現できるようになった集積回路エレクトロニクスを、生体内でのバイオセンシングやバイオインタフェースに用いるという発想は自然なものであり、内外で精力的に研究されている。本稿では、我々がこれまで取り組んできた生体埋植マイクロエレクトロニクスデバイスの研究について紹介しながら、CMOS集積回路をベースとする生体埋植デバイスの特殊性と課題について論じる。

新しい生体埋植マイクロエレクトロニクスデバイス技術とは

 すでに、心臓ペースメーカや人工内耳など、いくつかの生体埋植エレクトロニクスが実用化されている。これらはいずれも、集積回路デバイスが完全防水・気密パッケージに収納されており、生体内環境から遮断されている。一方、我々が取り組んでいるのは、集積回路チップを生体のすぐ近くに配置し、例えば少ない配線での多点並列神経刺激・計測や接触型イメージングを実現しようとするものである。その場合、半導体集積回路チップの表面や、ごく近傍に配置した電極を生体環境にさらす必要がある。このような新しいタイプの生体埋植デバイスは、一般に広く利用されるまでには至っていない。技術的要件として、機能と回路のデザインだけでなく、デバイスと生体組織の双方を保護しながら同時に生体刺激や計測などの機能性を実現するパッケージング技術も非常に重要となる。