本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第8号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

昆虫の構造や機能の模倣

 近年、自然の構造や機能に学ぶものづくり(バイオミメティクス)が注目され、昆虫の構造や機能を模倣していろいろな製品が開発されています。例えば、カブトムシ(甲虫目「こうちゆうもく」)†1の構造では、その巧みな翅(はね)†2の折り畳み方が人工衛星のコンパクトなアンテナや太陽電池パネルに応用されています。また、蛾(鱗翅目「りんしもく」)†3の複眼は、光の反射率が低く、暗がりでも効率よく光を集めて飛ぶことができます。これは、複眼表面にある構造(モスアイ構造)によるもので、このモスアイ構造が液晶テレビや携帯電話のディスプレイなどの反射防止膜に応用されています。

†1 甲虫目カブトムシ、カミキリムシ、ゾウムシなど固い上翅をもつ仲間を示し、非常に多様な昆虫が属しています。日本では10,000種以上が知られています。
†2 翅昆虫の薄く平たい「はね」を生物学の専門用語で「翅」と表記します。一方、羽毛の集合体から構成されている鳥の「はね」は「羽」あるいは「羽根」と表記し、昆虫の「翅」と区別して用います。
†3 鱗翅目蝶や蛾の仲間を示し、翅の表面が魚の鱗のような形状をした鱗粉で覆われていることが特徴です。日本に土着している蝶は約250種、蛾は5000種以上います。なお、蝶と蛾には厳密な区別点はありません。

 また、モルフォ蝶(南米原産のタテハチョウ科)の翅を覆う鱗粉の断面構造からヒントを得て、屈折率の異なるポリマーを交互に積層させた糸を合成し、独特の色彩(構造色)をもつ繊維が開発されています。さらに、昆虫の工学分野以外の応用として、将来の食料難に備えてコオロギ(直翅目「ちよくしもく」)などの昆虫を食料(タンパク源)とするビジネスがヨーロッパを中心に展開されています。

 以上のように、昆虫の構造や機能を模倣した研究や製品は多くありますが、昆虫そのものを材料やデバイスに用いる研究はほとんど行われていません。ここでは、昆虫の翅を基板として光学材料への応用を試みた研究の一端を紹介します。