本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第6号に掲載された「プラズマの環境・電力応用── プラズマと液体との関係に着目して」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

プラズマの環境応用として水処理に用いられる「気液界面プラズマ」では,プラズマ中に蒸発した水蒸気から,有機物を分解する活性種が生成される。一方,プラズマの電力応用例である「ハイブリッド直流遮断器」では,電気接点開極時にアーク放電プラズマが形成されることで,並列接続した半導体素子に事故電流を転流させ遮断する。このプラズマは接点の溶融・蒸発を経て形成されるため,気液界面プラズマとは逆の過程といえる。本稿では,気液界面プラズマを用いた水処理技術とハイブリッド直流遮断器について,プラズマと液体の関係に着目して紹介する。

 液体と接するプラズマ「気液界面プラズマ」の研究が盛んに行われている。気液界面プラズマの応用では、プラズマと液体の界面がヒドロキシラジカル(OHラジカル。以下、・OH)などの活性種生成において重要な役割を果たすことから、実験・シミュレーションの両面から研究が進んでいる1~3)。水面上アルゴンプラズマ(正極性の針電極と接地した水の間に形成)における、・OH生成に関する反応を例として、プラズマ-液体界面で観測される現象の一部を、図1に示す。液相からプラズマへの作用として、液体の蒸発やスパッタリングによる、液体種のプラズマ中への混入が起こる。液体が水の場合は、界面近傍で水蒸気濃度の高い領域が形成され、・OHなどの活性種生成反応を誘起する。一方、プラズマから液相への作用としては、活性種の液相への吸収や、イオン・紫外線などの照射による液相での活性種生成が起こる。上記の過程で生成される活性種が、水処理4)や医療応用5,6)、農業応用7)において活用されている。

図1 プラズマ- 液体界面で観測される現象の例(水面上アルゴンプラズマ)。
図1 プラズマ- 液体界面で観測される現象の例(水面上アルゴンプラズマ)。
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 水中の難分解性有機物を分解する水処理は、気液界面プラズマ応用の代表的なものである。現在、上水・下水や環境水中に混入する難分解性物質の問題が顕在化し、塩素処理に代わる水処理技術が求められている。実用化されているオゾン処理では、ダイオキシンなどの難分解性有機物を分解することができないため、活性酸素中で最も強い酸化力を有する、・OHを利用した高度水処理技術の1つとして、気液界面プラズマが用いられている。プラズマ中には電子やイオン、準安定状態原子などの高エネルギーの粒子が多数存在する。これらが水分子と反応して・OHが生成され、水中の有機物を分解することができる。ここでいう分解とは、有機物を二酸化炭素および水へと無機化することである。本稿では、代表的な難分解性有機物である酢酸と、界面活性剤の一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の、気液界面プラズマを用いた分解処理で得られた知見について、プラズマ-液体界面に特に着目して紹介する。

 また、プラズマの電力応用の一例として、ハイブリッド直流遮断器を紹介する8)。太陽光発電などの分散型電源や蓄電池システムの導入に伴い、直流電流遮断の需要が増加している。直流電流は交流電流と異なり、電流零点をもたないため、事故発生時の電流の遮断が困難であるが、電気接点と並列に半導体素子とバリスタ†1(非線形抵抗素子)を接続したハイブリッド直流遮断器は、低定常損失と高速電流遮断を実現可能である。ハイブリッド直流遮断器の動作時には、はじめに電気接点が開極してアーク放電プラズマ†2が形成される。このアーク放電プラズマは、電極材料の固体→液体→気体の相変化を経て形成される。気液界面プラズマでは、プラズマからの熱入力によって液体が蒸発するが、ハイブリッド直流遮断器では逆に、溶融した液体金属が蒸発する際にプラズマが形成されるのが興味深い。本稿では、ハイブリッド直流遮断器の動作時に電気接点で観測される現象と、現在研究中のアークレス転流について紹介する。

†1 バリスタ 2つの電極間に印加される電圧が、ある値よりも大きくなると急激に電気抵抗が小さくなる非線形抵抗素子。酸化亜鉛を主成分とするものが主に用いられる。

†2 アーク放電プラズマ 数十V程度の低電圧で維持されるプラズマで、熱プラズマとも呼ばれ、プラズマ中のガス温度は数万Kに達することもある。