本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第5号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

半導体レーザー(LD)の高性能化に伴い、LD励起全固体レーザーの大出力化が進展している。従来スループットや電力からレーザーへの変換効率が壁となって実用化が進まなかったが、現在、産業用材料加工から究極のエネルギーを生みだす慣性核融合炉用ドライバまで幅広い応用への道が開きつつある。パワーレーザーが全固体化され超高強度・超短パルスが高繰り返しかつ高効率に利用できるようになれば、高エネルギー密度プラズマや量子ビーム発生という革新的な科学技術分野から新産業が次々と生まれる可能性がある。本稿では筆者らが取り組んでいるパワーレーザーと応用開拓に関する研究開発について紹介する。

 近年、高出力半導体レーザー(Laser Diode:LD)の発展は目覚ましく、レーザー発振波長900nm 帯において、出力では連続発振で300Wを超えるLDアレイが実現され、最大電気・光変換効率も70%を超えるまでに至っている1,2)

 また利用可能なレーザー波長についても可視~近赤外域はもちろん、今や紫外(波長<300nm)から中赤外(4~7μm)までもカバーするようになっている3~5)。応用物理学上だけでなく産業利用の面からも、このような格段の技術的進歩は10年前とは隔世の感がある。今やランプ光源からLED(Light Emitting Diode)、そしてLD へというトレンドは衆目の一致するところであろう。

 一方、高出力固体レーザーは歴史上ルビーレーザーの発振を起源6)とするように、フラッシュランプ(Flash Lamp:FL)によって固体結晶中に含有された希土類元素イオンを光励起することでレーザー準位間において反転分布を形成し光増幅作用を発現させる技術により発展してきた。

 1980年代後半からは高出力LD が開発され、これを励起光源としてNdイオンの吸収スペクトル(波長808nm)を直接レーザー励起することにより、FL 励起に比べて10倍以上の励起効率が実現され、高効率、高出力、高ビーム品質、長寿命といった技術課題が一気に解決できるめどが立ち、産業用YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザー7)から慣性核融合炉用ドライバ8~11)まで数多くの可能性が検討された。現在ではLD 励起固体レーザー(Diode-Pumped Solid-State Laser: DPSSL)として実用化・製品化され計測、分析、加工などに活用されている。浜松ホトニクス(株)も高出力LDの応用として、早くからDPSSL 技術に着目し研究開発を進めてきた12~14)