本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第2号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

低抵抗で高透過率、フレキシブルで軽くて低コストな透明電極フィルムは光デバイスの高機能化にとって重要である。ITO膜に代わるものとして、グラフェンや銀ナノワイヤは有力な候補である。電子デバイス応用を考えた場合、グラフェンは導電性に、銀ナノワイヤは平坦性と化学的安定性、エネルギーレベル制御に欠点を有する。しかし、これらを積層、ポリマーで裏打ちすることにより、両者の長所を生かしたまま欠点を補える透明電極フィルムが得られることを見いだした。

 グラフェン超薄膜は希少元素を用いないフレキシブルな透明電極として、有機薄膜太陽電池1,2)やOLED(Organic Light-Emitting Diode:有機発光ダイオード)3,4)などにITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)代替もしくはITOにない機能をもつ電極として検討されている。

 グラフェンの特長としては軽く、フレキシブル、近赤外領域の透明性が高く、平坦で化学的にも安定で、修飾により仕事関数も制御できる。熱CVD(Chemical Vapor Deposition)と転写で、大面積の透明グラフェンフィルムも作製されている5)。しかし、銅箔を犠牲触媒として用いるCVD法では低コスト化は難しい。一方、酸化グラフェン(Graphene Oxide: GO)を塗布して得られる膜を還元して得られる還元型の酸化グラフェン(reduced GrapheneOxide: rGO)膜は低コストであるが表面抵抗は大きい6)

 グラフェンをOLEDや太陽電池の電流駆動の電極として用いる場合、小さな表面抵抗が必要である。特にセルのサイズが大きい場合、表面抵抗が大きいと効率が低下する。

 現状、OLEDや有機太陽電池用には10Ω/□(用語解説参照)以下のITOガラスが用いられている。しかしながら、CVDと化学ドーピングで得られる最も抵抗の低いグラフェン透明電極でもITOガラスと同等にはならない。我々は、グラフェンのみでは太陽電池やOLEDに使用できるような低抵抗の大面積透明電極を作製するのは難しく、何らかの補助電極が必要と考えた。

 補助電極として最も有望な候補は、金属ナノワイヤである。銀ナノワイヤ(AgNW)を用いた透明電極は、タッチパネル用に実用化されている。AgNW透明電極は、10Ω/□以下の表面抵抗を実現するものとして極めて有効と考えられる7~9)。塗布で形成でき、フレキシブルであり、使用する銀の量が少ないため低コストでもある。凹凸も金属ナノワイヤの直径の2~3倍程度であり、比較的平坦化しやすい。また、金属グリッドと比べてナノワイヤの密度を大きく上げられるため、rGO膜中のグラフェンドメインの欠陥や粒間の影響を小さくすることができると期待される。

 すなわち、図1で示す平面のrGOとAgNWの積層構造である10)。平面のrGO層は横方向の導電性は低いが下地の活性層との電子授受を受け持ち、AgNWが横方向の電導を担う。AgNWは仕事関数が4.3eVと比較的小さく、グラフェンとの接合もうまくいく可能性が高い。AgNWは腐食が問題となるが、グラフェン層が保護膜になる。またGOからは塗布でグラフェン層が作製できるため、CVD法に比べプロセス的にも有利であり、低コスト化が期待できる。

図1 グラフェン/銀ナノワイヤ/ポリマー積層透明電極フィルムの特徴
図1 グラフェン/銀ナノワイヤ/ポリマー積層透明電極フィルムの特徴
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