本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第1号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

フレキシブル有機デバイスにとって、外部から侵入する水蒸気は深刻な劣化要因となる。デバイス寿命を確保するためには、高いバリア性を有する封止(ふうし)技術、特にハイバリアフィルムの開発が重要である。しかし、水蒸気バリア性評価の信頼性には課題があり、バリアフィルムの性能評価が困難な状況である。本稿では、国際標準となりうるバリア性評価技術を確立するため、国際単位系(SI)にトレーサブルな装置を用いて評価技術の妥当性を検証した。

 電子デバイスに対してフレキシブル化の需要が高まっている。ウェアラブル端末や、IoT(Internet of Things)の流行が後押しする形となっているようだ。曲げられる、引き伸ばせるといった形状変化のみならず、軽量で壊れにくいというメリットは使用用途の大幅な拡大につながる。

 フレキシブルデバイスの実装は、屈曲性のある樹脂などの基板上で行われる。中でもフレキシブル有機ELデバイスは、実用化への期待が高まっている。しかし、図1に示すようにバリアフィルムや接着材などを通じて外部から水蒸気や酸素などが侵入することで、図2に示すようなサイド消光あるいはダークスポットと呼ばれる非発光領域が発生し問題となる1) 。特に水蒸気の影響が深刻と考えられており、対策として、デバイスや電極に耐性の高い材料を使用することも検討されている。ところが、デバイス効率を維持したまま材料の組み合わせを変更することは困難であるため、基板や封止部に水蒸気バリア性を付与することが余儀なくされている。

図1 フレキシブル有機ELデバイスの封止構成例。
図1 フレキシブル有機ELデバイスの封止構成例。
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図2 有機ELデバイスの劣化観察例。温度60℃、相対湿度90 %で非通電保管。
図2 有機ELデバイスの劣化観察例。温度60℃、相対湿度90 %で非通電保管。
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 フレキシブルデバイスの寿命を把握するためには、デバイス内にどの程度の水蒸気が侵入するかを知る必要がある。しかし、その量はごくわずかであり、侵入経路は多岐にわたるため定量化が困難である。そこで、バリアフィルムを筆頭に個々の封止材料の水蒸気バリア性を正当に評価する技術が必要となる。