本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第84巻、第12号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

現在の短距離系光通信の光源として中心的な役割を果たしている面発光レーザーの発明から、およそ38年が経過した。これまでの研究開発により、レーザーとしての性能も通常の半導体レーザーをしのぐようになり、アレイ化などの特徴を生かした応用も実証されてきた。特に短距離の光リンク用光源として成長し、光センサ、医療応用、光無線、光加工などの新しい応用分野も考えられている。今後、デバイス技術の一層の進展により、光インターコネクト、光アクセス網、レーザー照明など多様な分野への展開が期待できる。ここでは、面発光レーザーの高速直接変調、波長制御技術など、面発光レーザーの最近の進展について述べる。

 面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)は、伊賀健一東京工業大学元学長の発明から38年を迎えた1~4)。図1に示すように、99%以上の高反射率反射鏡を用いて垂直方向に微小共振器を構成する面発光レーザーは、低しきい値電流化が進められ、消費電力が小さい、2次元アレイ化が可能、ウェーハ単位での性能試験が可能であるなど、従来構造の半導体レーザーに比べて多くの利点が実証されてきた5~13)

図1 面発光レーザーの概念図。半導体の周期構造からなる反射率99% 以上の高反射率反射鏡で、活性層を挟み込むことで光の波長程度の微小共振器を構成している。半導体中に酸化膜を形成することで、横方向の光・電流閉じ込めが行われている。
図1 面発光レーザーの概念図。半導体の周期構造からなる反射率99% 以上の高反射率反射鏡で、活性層を挟み込むことで光の波長程度の微小共振器を構成している。半導体中に酸化膜を形成することで、横方向の光・電流閉じ込めが行われている。
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 また、世界中で精力的に研究開発が進められ、これまでの研究開発により、レーザー単体としての性能も通常の半導体レーザーを大きくしのぐようになってきた。サブミリアンペアの低しきい値素子の実現や近赤外波長域での実用化が進められて、現在の短距離光LANやデータセンタ・スーパーコンピュータ内の光インタコネクト用光源として中心的な役割を果たしている。

 さらに、図2に示すように、レーザーマウス、高精細高速カラープリンタに搭載され、また医用応用の光源としての研究開発も進められている。以前では想像もできなかったような応用面での実用化が進められている。特に、スーパーコンピュータやデータセンタでは、膨大な数の光配線導入が必須であり、ここでは、低消費電力動作を可能とする面発光レーザーが主役になっている。40Gbpsを超える高速直接変調動作、1bit当たりの消費電力として100fJ以下などの低消費電力動作など、将来の低消費電力インタコネクトのための革新的な開発が進められている14~18) 。さらに、民生応用でも高精細映像伝送システムに搭載されるなど、実用化面でも大きな進展が見られる。

図2 面発光レーザーのさまざまな応用。短距離のデータ通信、レーザーマウス、高精細プリンタ、スパコン・データセンタ内の光インタコネクトなどの多様な応用が進められている。
図2 面発光レーザーのさまざまな応用。短距離のデータ通信、レーザーマウス、高精細プリンタ、スパコン・データセンタ内の光インタコネクトなどの多様な応用が進められている。
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 発光波長域も、最近では青色、緑色、赤色の可視光域から、現在データリンク・インタコネクトで主流の850nm帯、高信頼化・高速化を目指した1060nm帯、光アクセス用1300~1550nm帯、センサ応用として1500~2000nm帯の長波長帯面発光レーザーなど、広範囲の波長域での研究開発が進められている19~30)

  機能面では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)との融合による広帯域での連続波長掃引技術31~33)は、光干渉断層撮像法(Optical Coherence Tomography:OCT)などの生体観測用途で多くの注目を浴びている34)。100nmに及ぶ広帯域連続波長掃引は、面発光レーザー構造でなければ実現が困難である。また、微小共振器の特徴を生かすことで、温度変化に対して絶対波長を安定化したアサーマル半導体レーザーや、高密度な多波長集積化技術など、面発光レーザー固有の優れた特性も実証されている35~39)

 さらに、面発光レーザーを形成する多層膜反射鏡構造を用いたスローライト伝搬(でんぱん)を活用することで、数十μmの超小型の光スイッチ、光変調器、光増幅器、ビーム偏向器の新機能素子の提案・実証も行われ、これらの機能デバイスは面発光レーザーとの集積化も実証されている40~44)。また、これまで面発光レーザーは低消費電力特性を生かした低パワー応用が主であったが、アレイ化による高出力励起光源、ビーム形状制御による高出力動作など、パワーデバイスへの展開も見られる45)

 本稿では、面発光レーザーを基盤とした面発光レーザーフォトニクスともいうべきフォトニクス技術の最近の進展について述べる。