「FIT電気でエネルギー地産地消」はOK

 もう1つ、FIT電気の存在感を高めているのが、自治体が出資したり、関与したりして設立された「地域新電力」だ。電力小売りの営業指針では、FIT電気は、環境価値を持たないものの、「エネルギーの地産地消」を訴求要素にしてもよいことになった。

 みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市)、中之条電力(群馬県中之条町)などが典型だ(図9)。例えば、福岡県みやま市などが出資する新電力、みやまスマートエネルギーは、住宅向けの電力供給サービス「みやまんでんき」を始めた。同市の出資する第3セクターが運営する出力約5MWのメガソーラーの発電電力と、市内の住宅に設置した太陽光発電設備から買い取った余剰電力も合わせて、「FIT電気」として供給する。

図9●中之条電力が電気を調達する町営のメガソーラー(出所:日経BP)
図9●中之条電力が電気を調達する町営のメガソーラー(出所:日経BP)
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 みやまスマートエネルギーのホームページの冒頭には、環境価値を示す表現は一切ない一方、「電力の地産地消~みやま市から始めよう」とのキャッチコピーがある。こうした地域新電力は、新電力の参入が大都市圏に偏りがちななか、地方住民にとっては、電力の購入に選択肢を増やすうえで、重要な役割を担っていく可能性がある。

 ただ、市町村などにエリアを絞った場合、限られた再エネ発電設備で、再エネ比率をどこまで上げられるのか。そして、FIT電気の原価(回避可能費用)が市場連動となるなか、収益性が不安定になり、特に規模の小さな新電力の場合、経営的なリスクが高まることが懸念される。

 再エネ推進政策の柱をFITに置く中、環境価値のない「FIT電気」が、「消費者の選択肢」「地産地消」という観点から評価ポイントの1つとなる可能性は大きい。ただ、それが一般的に広く定着していくには、そもそも「再エネ主体の電力供給」が、どの程度の顧客を獲得できるのかが試される。

 Looopによる消費者の意識調査では、「現在の料金プランと同額以下であれば、再エネに乗り換えるという人は77.3%」に達した。だが、野村総合研究所の調査では、電気を購入する際に重視する要素を聞いたところ、「再エネ由来の電気」は5%、「居住地域との関わり(地域新電力)」は13%となり、「電気料金の単価」の64%に比べ、わずかだった。

 ソフトバンクの馬場本部長は、「正直言って、再エネ主体の電気にどのくらい申し込みが来るか、まったく読めない」と、打ち明ける。「再エネ」によって、実際の消費行動がどの程度、変化するのか。まずは、「再エネ比率」のトップランナーとなる、ソフトバンクの「FITでんきプラン」、コープさっぽろの「FIT電気メニュー」の動向が注目される。