研究効率を劇的に高めたCRISPR

 第6のテクノロジーは、遺伝子を自在に書き換える技術「CRISPR」。もともと細菌が異物のDNAを記録して身を守る免疫システムを応用しており、既存の技術と比べると、圧倒的に簡便でかつ正確性も高いのが特徴だ。

 遺伝子組み換え技術は1970年代に登場し、大豆などの食品への応用でよく知られている。昔は大雑把な書き換えしかできず、数を重ねてうまくいった種を繁殖させて増やすといった仕組みだった。CRISPRの技術ではピンポイントで思い通りの書き換えができるため、以前は費用的な問題で応用できなかった領域まで、遺伝子の編集が行えるようになった。

 薬の研究ではこれまで、遺伝子組換えをしたノックアウトマウスを作らなければならなかったが、そのマウスを作るのに何年もの時間がかかるのが課題だった。これに対してCRISPRでは、研究に必要なマウスを作成する作業は1日で完了する。研究効率が劇的に改善されたことで、「遺伝子疾患やHIVなどの感染症、白血病などの悪性腫瘍への応用研究が進んでいる」(沖山氏)。

テクノロジー自身が進化を内在する

 第7のテクノロジーは、脳そのものをインプットあるいはアウトプットデバイスとして利用する技術であるBCI(Brain Computer Interface)。古くは人工内耳や人工網膜が代表例で、現在では思考による機械操作や文字入力などに発展している。

 デバイスには植込み型と装着型の2種類がある。現状では、植込み型は精度は高いが手術が必要、装着型は簡単に使えるが精度は低い、というジレンマがある。

 最近ではFacebook社や、イーロン・マスク氏が創設したNeuralink社などがBCIの開発を進めており、沖山氏は「BCIはこれから大きな研究資金が投入されていく領域」だと予想している。

 医療分野では、四肢などの失われた「アウトプット機構の獲得」、五感などの失われた「インプットの獲得」、3本目の手や超音波ビジョンなどの「運動能力、感覚能力の拡張」などへの応用が期待されているという。

 最後に沖山氏は、「人間がテクノロジーを進歩させるというよりも、テクノロジー自身が進展する性質を内在している」との見方を示した。その上で、人間がすべきことはテクノロジーを適切な形で運用することだと指摘。テクノロジーの利点を医療現場に還元することを目指して、今後の活動を進めていくとした。