人間の能力をロボットが拡張

 第2のテクノロジーは、自動化と、人間の運動・感覚能力の拡張をもたらすロボット。医療界で最も有名なのは手術支援ロボットda Vinci(ダ・ヴィンチ)だ。人間に比べて体力や視力、関節機能、腕(アーム)の数が増えるなど、まさに「人間の能力を拡張したデバイス」(沖山氏)といえる。

 また、人間以上に正確に縫合できる可能性を示した「STAR(Smart Tissue Autonomous Robot)」や、専門医の技術を汎用化することを目指した米Google社と米Johnson&Johnson社の「VerbSurgical」などのロボットも登場している。

 医療におけるロボットの役割を探ってみると、医療者側からは、人的リソースの代替、専門技術のコモディティー化(運動能力拡張)、事前情報量の増加(知覚能力拡張)などが期待されている。

 一方、患者に直接恩恵をもたらすロボットとしては、CYBERDYNEのリハビリ支援ロボットや、Pepperのようなロボットコンパニオンが既に登場している。ロボットコンパニオンは話し相手としてだけでなく、対象者のモニタリングにも利用できるなど、「マルチモーダルなツールとして活用できる」(沖山氏)。

VRやARと医療の親和性は高い

 第3のテクノロジーは、すべてが仮想空間にあるVR(Virtual Reality:仮想現実)と、現実世界と仮想空間が混在するAR(Augmented Reality:拡張現実)。VRの代表的なハードウエアとしては「Oculus Rift」「HTC Vive」「PlayStationVR」、ARのハードウエアには「Google Glass」「Microsoft HoloLens」などがある。特にARの技術が伸びている要因としては、核となるカメラや各種センサー技術の向上や、演算速度の向上などが挙げられるという。

 VRやARは、医療現場では手術シミュレーションや教育、PTSDの治療などに活用されている。医療との親和性が非常に高いことが特徴だ。

 その理由として沖山氏は「医療は人体のスキャンデータを持っている」ことを指摘する。データを1から作らなければならない業界ではVRやARのハードルは高いが、医療業界ではCTスキャンやMRIで患者のデータを蓄積している。そのため、それらのデータを活用することでVRやARで簡単に表現できるという強みがある。

 VRやARの価値は、時間や空間を仮想的に操作したり、五感を拡張したりできる点にもある。研修医が手術訓練中にミスをしても、VRであれば時間を巻き戻してもう一度やり直せるというわけだ。温度や超音波をARで可視化するような使い方も考えられる。