患者が一度“怖い”と思ったものは使われない

国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 診療科長の藤谷順子氏
国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 診療科長の藤谷順子氏
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 (1)のリハビリテーションの現場ニーズについて語ったのは、国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 診療科長の藤谷順子氏。同氏は「介護や福祉も入口はリハビリテ―ションなので、高齢化社会において人の手の代わりになる技術の需要はますます増える」とし、リハビリ機器などものづくり技術の活用に期待する考えを示した。

 リハビリ機器は、治療用など高度な医療機器とは違い、患者に与えるリスクが比較的低い。このため、「医工連携向き」と藤谷氏は見る。ただし、リハビリ機器と一口にいっても、その用途はさまざまだ。同氏は「評価・計測」「治療・訓練」「福祉機器」の3つの観点から、現場で求められるポイントを話した。

 評価・計測については、「医師だけでなく看護師やライセンスを持たない人が簡単に操作できるようなものが求められる」(藤谷氏)という。具体的には、体の外から嚥下を評価する方法や、マウスの運動記録を挙げた。マウスの運動記録は、例えば脊髄損傷の治療に関して実験を行う場合、「損傷時と治療後の運動能力を評価するものが求められる」(藤谷氏)。

 治療・訓練に関しては、「ロボットスーツHAL」のように人の歩行を支えるものや、リハビリテーションの人手を減らすために自主トレを支援する機器が求められると語る。藤谷氏は、自主的にリハビリをやらない人を動かすようなものが好ましいとし、「任天堂のゲーム機『Wii』のようなもので支援できたら」とイメージする。

 福祉機器としては、当事者が使うものと介助者が使うものがある。当事者が使うものでは、階段を昇降できる車いすや人と同じ目線になれる車いす、介助者側には介助者を助けるリフターのようなものが求められているという。

 しかし、これらのニーズを満たしていても「売れない製品もある」(藤谷氏)。福祉機器は医療従事者だけでなく患者自ら使うものも多い。手術室で使われる機器と違い患者が目で見て手で触れるもので、「患者が一度“怖い”と思ったものは使われない」(藤谷氏)。このため、誰でも手軽に使えることが求められる。

 藤谷氏は、自身が利用したい機器の開発だけでなく、いかにその製品を広めて企業の利益になるのかを企業と一緒に考えていくという。「いいものを作ったら絶対売れるというわけではないのが、この世界の難しいところ。利用者の気持ちや製品の普及方法についてよく考える必要がある」(藤谷氏)。