「医療の未来と製薬マーケティング~『医療人としての貢献』を通じたマーケティング基盤構築~」と題するセミナー(2015年10月19日に東京都内で開催)では、野村リサーチ・アンド・アドバイザリー調査部の根岸奈津美氏、ウェルビー 執行役員・疾患ソリューション事業部長の高橋朗氏の講演に続き、帝京大学医学部第三内科教授の小松恒彦氏が登壇した。同氏は、医療者の立場から電子カルテのデータベースを用いた医療の質向上、ならびに経営戦略構築をテーマに話を進めた。

「通院費がない現実もある」

帝京大学医学部第三内科教授の小松恒彦氏
帝京大学医学部第三内科教授の小松恒彦氏
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 血液内科医の小松氏は、DPC(包括医療費支払制度)導入を機に、医療の経済的側面やシステムの有効活用に目を向けたという。勤務する帝京大学ちば総合医療センターでは、富士通の電子カルテシステム「HOPE EGMAIN-GX」を中枢とするが、このデータベース機能を活用して、まずは初歩的な実験から始めた。

 取り組んだのは、血液がんの患者が病院からどのような距離に分布していて、通院にどれだけの金額がかかるのかを分析するというもの。これは、医師の診断や薬代などの目に見える医療費用のみならず、通院費、駐車費、子供を一時的に預ける託児費などの非医療費用も確実に患者の負担となると考えたからだ。

 電子カルテから医療センターに入院した血液がん患者の90名分のデータを抽出し、「Google Earth」と「Batch Geo」という無料のサービスを利用してマッピング。10km圏内と10km圏外とに分け、まずは往復に要する時間を計測したところ、10km圏内は平均約32分だったのに対し、10km圏外は平均で約142分かかったという。

 次に往復時間で通院費を推計してみたところ、往復1時間以内の患者はタクシーを利用しても4000円程度だったにもかかわらず、1時間超えの患者は2万円程度になることが見えてきた。この結果を踏まえ、現役医師として小松氏は次のように訴えた。「見えない医療費の問題は大きい。抗がん剤の外来化学療法を進めようと言われているが、患者の距離は無視されている。現実として、通院費がないということもある」(小松氏)。