「医療の未来と製薬マーケティング~『医療人としての貢献』を通じたマーケティング基盤構築~」と題するセミナーが、2015年10月19日に東京都内で開催された。本セミナーの前半では、野村リサーチ・アンド・アドバイザリー調査部の根岸奈津美氏とウェルビー 執行役員・疾患ソリューション事業部長の高橋朗氏がそれぞれ、「PHR(Personal Health Record)」や「EHR(Electronic Health Record)」の活用の現状や可能性などについて講演した。

米国で鍵となる「患者エンゲージメント」

 最初に登壇したのは、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの根岸氏。国内外のデジタルヘルス事例や高齢者マーケットの調査に携わる根岸氏は、米国のデジタルヘルスケアサービスの動向を中心に報告した。

野村リサーチ・アンド・アドバイザリー調査部の根岸奈津美氏
野村リサーチ・アンド・アドバイザリー調査部の根岸奈津美氏
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 米国では2009年、医療ITを促進する「HITECH法」によりEHRのインセンティブ支払いプログラムが開始され、電子カルテの導入が飛躍的に伸びている。また、デジタルヘルス分野でのベンチャーキャピタル(VC)の投資も加速しており、ここ数年はビッグデータ分析の分野が増えているとする。

 米国で鍵になるのが「患者エンゲージメント」という概念だ。これは平たく言えば、患者自身が自ら学習・参加することで最適な治療や医療を選択していくこと。その媒介としてスマートフォンなどによるオンライン診断、診察予約、電子処方箋などITサービスの進化があり、それがEHRプラットフォームに蓄積されていく。

 患者エンゲージメントの成功事例として示したのが、大手保険機構の米カイザーパーマネンテによる「My Health Manager」である。医師とのメール、診療予約、診療履歴、処方薬管理などをポータルサイトにまとめ、患者による能動的なプラットフォームとして機能する。新しい取り組みとしては米Apple社の「HealthKit」に着目しており、PHRとEHRを同じプラットフォームに載せる米メイヨークリニックの例を提示した。

 また、根岸氏はウエアラブルデバイスの多様化、セルフケアアプリやオンライン診断の増加、大塚製薬と米Proteus Digital Health社が開発したセンサー入り錠剤などの例を挙げながら、PHRの急速な進化に言及。とりわけウエアラブルデバイスについては、Fitbitに代表される活動量計の分野は群雄割拠であるため、今後は心拍数や血糖値、血圧、脳波など、より専門的な患者向けのデバイスが注目されると語った。