定性的になりがちなリハビリ現場を技術で救う

脳卒中のトレーニング支援機器、発症後3年以上の患者にも効果

2016/10/03 14:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
 地方自治体が“医療クラスター”を目指し、医療・健康産業に携わる企業の集積や、異業種からの産業参入を支援する動きは枚挙にいとまがない。名古屋産業振興公社が運営する「医療介護ものづくり研究会」もその1つ(関連記事)。2016年8月30日に名古屋市内で開催されたキックオフイベントを皮切りに本格始動した。

 同研究会は、医療介護に関する機器・ロボットの開発および普及の促進を目的としている。ものづくり企業や病院、介護事業者などの多様な会員間の連携をコーディネーターが仲立ちすることで、医療介護機器のスムーズな開発を支援するという。

名古屋市 市民経済局 参事(産業技術支援)の青木猛氏
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 イベントに登壇した名古屋市 市民経済局 参事(産業技術支援)の青木猛氏は冒頭、イベント参加企業に向けて次のように呼びかけた。「肩の力を抜いて、この会を“出会いの場”にしてほしい。医療分野への参入は敷居が高いと感じている人も多いと思うが、試作から製品化に進むなど、次の段階への移行を気軽に行えるようコーディネーターが協力する体制をつくっている」(青木氏)。

“治るのに治せない”現状を打破

名古屋工業大学大学院 工学研究科 電気・機械工学専攻 教授 産学官連携センター 副センター長の森田良文氏
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 医療産業のなかでも、とりわけリハビリ医療に力を入れているのが、名古屋工業大学大学院 工学研究科 電気・機械工学専攻 教授 産学官連携センター 副センター長の森田良文氏。同氏はイベントに登壇し、リハビリ医療の重要性について講演した。

 リハビリと一口に言っても、患者を直接支援するものと、理学療法士や作業療法士などのセラピストを支援するものの2種がある。森田氏が携わるのは後者だ。セラピストは短い時間で効率よく患者を治したいという思いを抱いているが、現状のリハビリには次のような問題があるという。「リハビリ前後の患者の評価やリハビリのメニュー作りはセラピストが行うため、どうしても定性的になってしまう」(同氏)。

 特に同氏らのグループが着目したのは、脳卒中片麻痺患者に対する上肢トレーニング。一般的に脳卒中は、発症から6カ月以上経過すると治らないとされているが、「リハビリに時間をかければ、6カ月を過ぎていたとしても治る患者もいる」(森田氏)という。

 ある動きをしようとすると、他の関節まで動いてしまう「共同運動パターン」の症状もその1つ。分離運動訓練を1日当たり3時間のリハビリを行えば治ると考えられているが、「在宅で生活できる状態で行う維持期リハビリテーションにおいては、保険治療が20分と定められている」(森田氏)。治すために十分な時間をかけられないことが課題だった。

発症10年超の患者にも有効

 そこで同氏らの研究グループでは、脳卒中片麻痺患者のための上肢トレーニングにおいて、セラピストの徒手療法(道具を使わずに素手で行う療法)を一部リハビリ支援機器に置き換えるシステムを考案した。湘南医療大学 教授の田邉浩文氏(リハビリテーション学科 作業療法学専攻)らのグループが行う徒手療法の一部を置き換える「UR-System(Useful and ultimate Rehabilitation System)」がそれだ。現在商品化を目指して研究開発を進めており、痙性の減弱や分離運動の学習効果があるという。

UR-System使用イメージ
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 同機器を脳卒中患者に使用したところ、手を外側に回す動作や肘を伸ばす動作について「発症後3~10年経過した患者でも回復効果がみられた」(同氏)。脳の可塑性によって動作を再学習したと考えられるという。「ADL(日常生活動作能力)や要介護度の改善も期待できる」(同氏)。

 同氏はイベント終盤、リハビリの現場は定性的になりがちであるがゆえに、機器開発へのニーズがたくさんあるとし、リハビリ支援機器の開発を呼び掛けた。「リハビリ効果の見える化やセラピストの負担軽減のためのリハビリ治療支援、新たな治療技術の開発などが求められている」(同氏)。