植物や動物、鉱物などの生薬を配合して作る漢方薬。全国に30万人いる医師のうち9割が処方しているといわれるほど一般的な存在となっている。2011年からは全国80大学の医学部全てにおいて、漢方医学の講義が行われるようにもなった。

山口大学 大学院創成科学研究科 教授の浜本義彦氏
山口大学 大学院創成科学研究科 教授の浜本義彦氏
[画像のクリックで拡大表示]
 しかし、大学の講義では漢方に関する基礎知識のみを学ぶため、「実際の処方は医師が現場で培った経験や勘に依存する場合が多い」と山口大学 大学院創成科学研究科 教授の浜本義彦氏は話す。医師の判断に委ねられることが多いため、漢方薬の処方は不確実性を伴うものであるというのだ。

 そこで浜本氏は、処方の不確実性を解消するために、統計学の考え方を実装したAIを活用して、漢方薬の処方をEBM(Evidence based Medicine)化する取り組みを進めている。同氏は分析機器・科学機器に関する総合展示会「JASIS 2017」(2017年9月6日~8日、幕張メッセ)のライフサイエンスイノベーションフォーラム2「次世代ヘルスケアを先導する共創のプラットフォーム」で講演を行った。

専門医の過去データで処方を数値化

 浜本氏が着目したのは、不確実性を伴う問題を数量化するという統計的パターン認識の考え方である。例えば、天気予報を例に考えると、「今日は雨が降る」という予報は不確実な情報にすぎない。この情報を「降水確率80%」という数値に表すことができれば、雨が降るという予報と降水確率を踏まえて「傘を持って行こう」と意思決定を行うことができる。これが統計的パターン認識による不確実性の対処法だと同氏は説明する。

 これを漢方薬の処方に応用すると、医師の経験や勘が不確実性を伴う部分となる。そこで、漢方専門医による処方の履歴データを用いて処方の妥当性を数値化する。例えば、患者が発熱と頭痛、鼻水の3つの症状を訴えたとする。専門医の処方履歴をデータ化しておけば、これら3つの症状が同時に起きたときにどの漢方を処方することが多いのかを妥当性として数値で表すことができ、最も妥当な漢方薬を探し出すことができる。

 医療の現場において、特に「個別化医療に関しては不確実性を伴う判断をする場面が多い」と浜本氏は語る。そのため同氏は、漢方薬の処方だけでなく、創薬における患者の層別化や肝がんの早期再発予測、早期胃がんのリンパ節転移予測、大腸がんの治療効果の予測などへも統計学の考え方を応用したAIを活用することを検討しているという。

 例えば、創薬における患者の層別化においては、「複数のバイオマーカーを使って薬の効果が見られるクラスとそうでないクラスに患者を識別するパターン認識問題として考えれば良い」と浜本氏は話す。新薬開発の成功確率を高めたり不要な薬剤を投与することを防いだりすることができる可能性もあるという。