講演する落谷氏
講演する落谷氏
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 国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 主任分野長の落谷孝広氏は、2017年8月24~25日に開催された「第58回 日本人間ドック学会学術大会」の特別講演に登壇し、「体液マイクロRNAによるがんの早期発見:がんにならない、がんに負けない、がんと生きる社会をめざす」と題して講演。同氏が主導する「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」の成果などを紹介した。

 同プロジェクトでは、1滴の血液から13種類のがんを超早期ともいえる段階で発見する技術を確立する。がん細胞を含むさまざまな細胞が分泌し、細胞間の情報伝達などに関わるエクソソーム、およびエクソソームが内包するマイクロRNAに着目し、マイクロRNAをマーカーとするがん検出技術の開発を進めてきた。既に多くの臓器のがんで95%以上の検出感度を得ており、2017年8月にはこの技術の実用化を目指した前向き臨床研究を国立がん研究センター中央病院で開始した(関連記事)。

 今回の講演で落谷氏は、この技術が実用化した場合の医療費削減効果の見通しを、大腸がんを例に示した。大腸がんが進行がんの段階で発見されて手術、その後肝転移が発見されて肝切除、数年後にリンパ節転移が発見されて抗がん剤治療、そして死亡。こんな経過をたどった場合に見込まれる総治療費(医療費)は約1100万円という。

 対して、早期がんの段階でマイクロRNAを使ってリスク判定できた場合のシナリオはこうだ。マイクロRNA検査によるリスク判定後、内視鏡検査を行って早期の大腸がんが発見され、これを切除することで治癒に成功。マイクロRNA検査によるフォローアップをその後、3回実施する。

 このケースで、最初に行うがん検索のためのマイクロRNA検査の費用を落谷氏は2万円と見積もり、大腸がんに特化したフォローアップのためのマイクロRNA検査の費用を1回当たり2000円と見積もる。これに内視鏡検査や病変切除術などの費用を含めても、合計の治療費は10万円前後で済むと試算されるという。つまり、マイクロRNA検査で大腸がんを早期に発見することで、総医療費を約1/100に下げられるとの見積りになる。