ところが、2002年からの10年間は、まさに“失われた20年”の真っ只中。「多くの人は日々暮らしていくことに精一杯だった」と近藤氏は振り返る。そのため、こうすべき型では生活習慣を変えることはできなかった。例えば、メタボリックシンドロームの対策に関しては、言葉自体の理解は浸透したが、行動が伴わずに男性のメタボリックシンドロームの割合が増えてしまったという。
健康日本21では、喫煙や飲酒などの生活習慣を改善するための取り組みが行われてきた。しかし、その外郭にあるもっと根本的な要因にアプローチする必要があると近藤氏は考える。例えば、人とのつながりだ。一人で運動を続けることは難しいが、伴走してくれる誰かがいることで継続につながる可能性がある。「いかに人とのネットワークを持っているかが大切になる」と近藤氏は話す。さらに、「生活環境や社会経済の状況を考慮しないと生活習慣は変わらない」(同氏)とも見る。
実際、近藤氏らが行った研究では、週に1度も外出しない“閉じこもり”の高齢者ほど、所得や学歴が低い人が多いことが分かっている。閉じこもりになるほど要介護状態になりやすいことも分かっているという。糖尿病に関しても、低所得者ほど罹患者が多く重症であるという。「昔は糖尿病のことを“贅沢病”と呼んでいたが、今は“貧困病”といえるだろう」と近藤氏は話す。
こういったことが積み重なると、「命の格差につながる恐れがある」と同氏は警鐘を鳴らす。生活保護を必要とする最も所得が低い層は、富裕層に比べて死亡や要介護度認定のリスクが2倍近く高いことが分かっているという。介護予防が叫ばれているが、「こういった社会弱者こそ最大のターゲット」と同氏は指摘する。