目的と手段、どちらが先か

 最初に登壇した東京大学 医学部附属病院 企画情報運営部 特任講師の横田慎一郎氏は、電子カルテデータの2次利用について講演した。

 2次利用という側面から見た場合、電子カルテには紙のカルテに比べていくつもの利点があると同氏は話す。(1)大量のデータを収集できる、(2)入力誤りをシステム側で防いだり入力値を制限したりできるため、集計しやすい、(3)データをExcel形式などで出力でき加工しやすい、などの点だ。

 ただし、電子カルテの自由記載文については、その活用に向けてテキストマイニングなどの手法の「研究は盛んだが、事実上はまだ使えない」(横田氏)。そのため、集計したいデータは選択肢の形式に落とし込む必要がある。現状では、医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)による「看護実践用語標準マスター」を利用したり、手作業で整備しているのが実態だ。

 データの2次利用で重要なのは「データがあるから分析してみよう」なのか「改善したいことや知りたいことがあるからデータを利用しよう」なのか、その姿勢の違いかもしれない。横田氏らのグループでは「やりたいことのために電子カルテを使う」ことを重視し、例えば入院患者に対する“エビデンスに基づく転倒リスク判別の仕組み”の構築に電子カルテデータを活用した。

 この取り組みでは、患者の基本情報データや看護記録データ、インシデントレポートデータを収集し、統合的に解析。リスク判別モデルを構築し、電子カルテに実装した。1万人分のデータを収集し、5千人分のデータからリスク判別モデルを作成。残り5千人分のデータでその検証を行った。

 電子カルテデータは、こうした仕組みの運用変更に向けた評価にも利用できる。例えば横田氏らは、転倒リスク判別モデルを電子カルテに実装したことで、入院患者の転倒件数が実際に減ったかどうかを検証した。転倒件数のデータを集め、患者の年齢や性別、医療処置の状況などで調整した多変量解析を実施したところ、転倒件数が有意に減少したことが確かめられたという。ただし、電子カルテから2次活用するデータは、ランダム化比較試験などに比べると「エビデンスレベルが低いことには留意する必要がある」(横田氏)。