個人の生体情報やレセプトなどの公的医療データをこれまでとはケタ違いの規模で収集・解析し、その時系列の変化や地域性を明らかにすることで、予見・先取型で持続可能な医療を実現する――。そんな目標を掲げ、2016年度に始まった国家プロジェクトの具体的な成果が見えてきた。日常の生体・環境情報をIoT(Internet of Things)の仕組みで収集し、クラウドで高速に解析する基盤が整いつつあり、地域における患者の分布や受療行動、薬剤処方傾向などを可視化できる効果も分かってきた。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
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 このプロジェクトは、内閣府のImPACTプログラム(革新的研究開発推進プログラム)に採択された「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」。2016年4月の本格始動からの約1年間の成果が、内閣府と科学技術振興機構(JST)が2017年6月30日に開催した「2017年度シンポジウム」で披露された(関連記事1)。

 同プロジェクトは2016~2018年度の3年間を実施期間とする。これまで収集・解析の対象とされてきたビッグデータをはるかにしのぐ「非連続な量のデータを、非連続なスピードで収集・解析・処理できるプラットフォームを構築する。そのうえでこれを、医療とものづくりの社会問題の解決に生かす」(プログラム・マネージャーを務める京都大学 工学部 教授の原田博司氏)。具体的には、ストレージアクセス速度が従来比10万倍のビッグデータ処理基盤などを開発することで、医療や製造の分野で発生する数百億レコード規模のデータを数分以内に処理できるようにする。

 今回のプロジェクトの大きな特徴は、データの時系列での収集・解析に力を入れること。「世の中にはさまざまなビッグデータがあるが、時系列に並んでいるものは少ない。時系列化されたデータを複数連携させ、新たな価値創造につなげているデータベースも少ない」(原田氏)。

京都大学の原田博司氏
京都大学の原田博司氏
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 そこで今回は、例えば医療分野であれば、レセプトやDPC(包括医療費支払い制度)データなどの公的医療データ(マクロデータ)と、個人の生体情報を連続計測したデータ(ミクロデータ)の両方に関して、時系列での収集・解析を行う。これを通じ、病気の発症や進行を個々人レベルで予測可能とすることで、健康寿命の延伸や医療費の削減につなげる。地方自治体や国の「政策にも使えるような情報基盤を確立する」(原田氏)ことが大きな目標だ。

 こうした目標に沿い、4つの開発プロジェクトを並行して進める。データ収集・解析基盤を構成する「超ビッグデータ創出ドライバ(プロジェクトリーダー:京都大学の原田博司氏)」と「超ビッグデータ処理エンジン(同:東京大学 生産技術研究所 教授の喜連川優氏)」、およびその出口となる「ヘルスセキュリティ(同:自治医科大学 学長の永井良三氏)」と「ファクトリセキュリティ(同:三菱電機 情報技術総合研究所 統轄の早川孝之氏)」だ。6月30日のシンポジウムでは、各プロジェクトの担当者がこれまでの開発の進捗を紹介した。