カテ治療や抗菌薬処方の実態が明らかに

 プロジェクトの2つの出口のうち、ヘルスセキュリティでは大きく2つのテーマに取り組む。第1に、医療提供の需給バランスや経済性を分析し予測する「医療介護・社会リスクシミュレーター」を開発する。解析対象はレセプトやDPCデータなどの公的医療データで、いわゆるマクロ系の解析だ。自治医大と産業医科大学、東京大学、医療経済研究機構が中心となって取り組む。

 第2に、心臓病を中心とする重篤な疾患について、その予見や重症化予防を可能にする「心臓関連疾患リスクシミュレーター」を開発する。解析対象は家庭用医療機器やセンサー端末から集まる生体・環境計測データ、さらには院内の検査・治療情報や電子カルテなどで、ミクロ系の解析に当たる。自治医大が中心となって取り組む。

自治医大の永井良三氏
自治医大の永井良三氏
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 このプロジェクトについては、プロジェクトリーダーを務める自治医大の永井氏が全体の概要を説明。続いて、心臓関連疾患リスクシミュレーターへの取り組みを自治医大 教授の苅尾七臣氏が紹介し、医療介護・社会リスクシミュレーターへの取り組みを医療経済研究機構 研究副部長の満武巨裕氏と東京大学教授の橋本英樹氏がそれぞれ紹介した。

 自治医大の永井氏は、これからの医療では疾患の発症を「これまでよりも個別・層別化して予見することが求められる。そのためにはデータが重要になる」とプロジェクトの狙いを説明した。高額な医療費が話題となったがん治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)を引き合いに、医療をめぐる「社会保障システムも病気になる」(永井氏)と指摘。現場目線で個々の患者に最適な医療を提供するだけでなく、持続可能な医療提供体制や保険制度を模索する取り組みでもあることを強調した。

 自治医大では今回のプロジェクトに先駆けて、虚血性心疾患などに対するカテーテル検査・治療の適正化を目的とするデータベース構築を進めてきた。自治医大と東京大学、九州大学、東北大学がデータシェアリングで協力。心臓カテーテル検査レポートの標準データベース「CAIRS-DB」、およびこれと連携する多目的臨床データ登録システム「MCDRS」を開発した。

 これにより、450種類もの項目を通じて心臓病のハイリスク者を可視化・層別化する情報基盤ができた。参加5施設の合計で年間2000症例ほどの心臓カテーテル治療が行われていることから、同治療について2000症例/年×450項目という「世界的にも大きなデータベース」(永井氏)を扱えることになる。多施設のカテーテル治療を一括で分析することで、使用するステントの種類の施設間の違いなどが分かるようになった。

 このほか永井氏は医療介護・社会リスクシミュレーターの開発の一環として自治医大が取り組んでいる、熊本県におけるレセプトデータの分析結果を紹介した。抗菌薬の処方データの分析では、同県において第3世代セフェムと呼ばれるタイプの抗菌薬が高頻度に処方されていることが分かった。第3世代セフェムは、さまざまなタイプの菌に効くものの抗菌力が弱く、耐性菌をつくってしまう恐れがあるとされる。こうした薬剤が「大量に、しかも子供達にも使われている」(永井氏)という実態が明らかになった。