「喫煙者の2割が禁煙したら、年間3億円の生産性向上に」

 では、JALはどのようにして意識改革に取り組んでいるのか。JALの場合、破綻後に策定した企業理念や中期事業計画によって健康経営に対する考え方は大きく変化しており、これを受けて現在は「JAL Wellness 2016」と銘打った健康中期計画に取り組んでいる。この取り組みでは、リスク層への経過フォローや人工透析予防の必要性を訴える施策を強化したほか、禁煙誘導のための喫煙所閉鎖などに対応。健康層にも、勉強会や健康セミナーなどの施策を行っている。

 健康に関する費用をコストと考えず、投資と捉えて今まで以上に積極的に実施するのであれば、意識改革のひとつとして「経営者はその費用対効果を強く認識する必要がある」(大西氏)。JALでは、健康保険組合がミナケアからアドバイスを受けており、「社員の喫煙対策に年間1億円を投資して喫煙者の2割が禁煙に成功した場合、たばこを吸うために席を離れていた時間が無くなるだけで、年間3億円の生産性向上につながるとの試算を得た」という。「これらを真摯に受け止めて実行に移せるか」が経営者に問われている部分であり、「日本の経営者にはその思考が弱かったのではないか」と大西氏は考える。

 さらに大西氏は、意識改革に続いて「実践・実感」も達成できれば「変革は本物に変わる」と説く。実践・実感で重要となるのは「日常生活の中に健康行動を無理なく取り入れる」ということ。例えばJALでは、階段を積極的に使う「階段フィットネス」や本気のラジオ体操、社員食堂での健康定食の提供、昼寝のすすめ、専属トレーナーによるストレッチ指導などを取り入れている。また、健康増進には経営トップによるリーダーシップが必要だが、ボトムアップとしての現場レベルでの活動もあわせることで「本当に効果が発揮される」と大西氏は考えており、「経営のヒントは現場にありというが、健康経営でも同じことが言える」と実感している。

 なお、JAL Wellness 2016では7つの項目について数値目標を設定して取り組んでいるそうだ。例えば、全体禁煙率は23%から目標の20%を切るまで減少したが、男性はいまだ30%以上。そのため、現在は男性への取り組みを集中的に強化している。また、婦人科検診率は2012年比では倍増しているものの、家族全体を含んだ目標値にはまだ到達していないという。