超高齢社会向けサービスのビジコン、スタートアップ6社が競演

「AGING2.0 TOYKO GLOBAL STARTUP SEARCH」

2017/05/08 12:00
小口 正貴=スプール

 “世界に誇れる豊かな長寿国日本”を実現する、スタートアップビジネスコンテスト――。こう銘打つイベントが、2017年4月26日に東京都内で開催された。「AGING2.0 TOYKO GLOBAL STARTUP SEARCH」(主催:デジタルヘルスコネクト/SOMPOホールディングス/SOMPOケア/AGING2.0)である。

イベントの様子
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 超高齢社会に向けたサービスを展開するスタートアップの中から、事前に選考された6社が登壇。それぞれ5分間のピッチを行った。登壇した6社は、Moff、健康寿命デザイン、デジタリーフ、ヘルスグリッド、ヘルスケアマーケット・ジャパン、ユニロボット、である。

 今回のイベントで最優秀賞を獲得した企業は、2017年11月14~15日にかけて米サンフランシスコで開催される「AGING2.0 OPTIMIZE 2017」への出場権を賭け、日本代表チームとして前段階の準決勝に参加する権利を得る。AGING2.0は2012年に米国で始まった、シニア市場に特化したヘルスケアアクセラレータープログラムで、市場の新規開拓やスタートアップ支援を行ってきた。日本ではインフォコムが運営する新規事業創出プログラム「デジタルヘルスコネクト」と提携し、2015年にはビジネスコンテスト「#30in30in30」の日本大会を開催している。

MTヘルスケアデザイン研究所 代表取締役・所長の阿久津靖子氏
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 AGING2.0は世界の各都市単位で活動しているが、今回新たに東京チャプターが始動。こうした経緯もあり、今回登壇する6社にはグローバル展開も必須事項として求められた。アンバサダーに就任したMTヘルスケアデザイン研究所 代表取締役・所長の阿久津靖子氏は「日本型、アジア型のサービスを作っていく意味でも東京チャプターの存在は大きい。高齢化先進国として日本がトップを取ってビジネスを回し、民間からきちんとビジネスを作っていくのが使命」と話し、本イベントに対する期待を寄せた。

 それでは、6社のピッチの様子と最優秀賞を見ていこう。

Moff

 最初に登壇したのはMoff代表 高萩昭範氏。同社はリストバンド型のウエアラブル端末「Moff Band」を製造・販売するベンチャー。同端末を活用したIoT介護予防プログラム「モフトレ」を紹介した。

Moff代表 高萩昭範氏
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 Moff Bandは当初、スマートフォンアプリと連動するスマートトイを全面に打ち出していたが、現在ではそのセンシング技術を生かしてBtoBやBtoBtoC中心のソリューションに方向転換。2017年3月には総額3億円に及ぶ資金調達を果たした。

 90歳代半ばになる高萩氏の祖母が転倒事故を起こし、一時期介護状態に陥ったことがモフトレが生まれたきっかけだという。手首や足首に装着して回転や左右の動きなどの3Dモーションを認識、Bluetoothでタブレット端末と無線接続しながら活動結果を自動で記録する。「アプリ上で見える化し、自立支援に向けたロコモ予防サービス、日常生活動作、頭を使いながら楽しめるコンテンツを配信していく」(高萩氏)。

 日本国内は、全国4万カ所の通所介護拠点や老人ホームが対象だ。海外展開に関しては「すでにシンガポールや米国、アジア諸国で意見交換し、非常に大きなニーズを感じている。モフトレを日本発の介護予防支援サービスとして世界に広めていきたい」(高萩氏)と展望を語った。

健康寿命デザイン

 2番目に登壇した健康寿命デザインは、歩行と認知症、健康寿命との相関が高いことに着目し、自動的に直線歩行区間を検出して歩行速度を計測可能なアプリを開発。代表取締役CEOの椎名一博氏は「歩行速度は医学の世界でも重要だと認識されている。速度が回復すると虚弱のリスクが低くなり、認知症の改善が図れる可能性が高い」と、その重要性を訴えた。

健康寿命デザイン 代表取締役CEO 椎名一博氏
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 スマートフォンにアプリを入れて持ち歩くだけで、高精度で歩行速度と歩幅データを蓄積。歩行速度の変化を読み取り、低下が続くと警告する仕組みだ。「普通は分速70~80メートルで歩いているが、加齢とともに徐々に速度は落ちてくる。分速48メートルぐらいになると、MCI(軽度認知障害)、サルコペニア(筋力・身体機能低下)といった非常に虚弱な状態になる。歩行速度を知ることで、健康寿命を年単位で延ばすことも可能だ」(椎名氏)。

 同アプリは特許を取得済みで、太陽生命保険の認知症治療保険契約者向けにサービスを開始している。ターゲット層については「生活習慣予防は多いが、介護予防は空白地帯」(椎名氏)との認識から、この領域を戦略的に攻めていく構えだ。

デジタリーフ

 3番目に登壇したデジタリーフが提案したのは、医療介護向けコミュニケーション支援システム「RICANUS(リカナス)」。重度の寝たきり高齢者が自分の視線を使ってコミュニケーションを図る装置で、代表取締役社長の寺島健一氏によれば「iPadを活用した新しい意志伝達装置」となる。

デジタリーフ 代表取締役社長 寺島健一氏
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 これまでも寝たきりの患者やALS(筋萎縮性側索硬化症)患者向けに、視線による意思伝達装置は存在するが、「既存の製品は大きなモニター、センサー類が必要。高価で保守も大変。非常に限られたリハビリ施設や病院でしか導入できない」(寺島氏)のが現状だという。そこでRICANUSではiPadにアプリをインストールするだけで利用可能にした。画面上に表示されるメッセージや文字を目で追って選択し、登録済みのメールアドレスに意志を伝える。

 月額2万2000円でリースするビジネスモデルを考えており、「フルで2年間使っても既存の製品の半額以下」(寺島氏)とコスト面の優位性もアピール。いずれはライブラリ化してさまざまなサービスに組み込むことで「本サービスだけに限らない、多様なものづくり企業との連携」(寺島氏)が可能になるとした。

ヘルスグリッド

 4番目に登壇したヘルスグリッドが提供するのは、「身体年齢」をはじき出す「ボディスコア」と名付けた独自ソリューション。同社は健康状態を数値化する技術で特許を取得、その強みを生かした身体年齢計測アルゴリズムがベースとなる。

ヘルスグリッド 代表取締役 部坂英夫氏
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 体重や血圧、握力など16項目から算出した数値をもとに身体年齢を可視化し、「実年齢の呪縛から人びとを解放する」(代表取締役の部坂英夫氏)のが狙いだ。部坂氏自身、実年齢は58歳だが身体年齢は36歳だとし、身体年齢が新たな価値観となる可能性を次のように力説した。

 「身体年齢が若ければ、働いてもいいし、恋をしてもいい。身体年齢は人生のあらゆるステージで有効。我々は“高齢者”の概念を破壊したい。高齢者になってからのビジネスではなく、高齢者になる前から身体年齢を若いままに保つことで、世の中が変わると本気で考えている」(部坂氏)。

 2017年3月に開催された経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2017」でもファイナリストに選出されるなど、注目度は高い。長野県松本市では市民の健康活動にこの指標を採用したり、茨城県のソフト会社では身体年齢の若さをインセンティブとする確定拠出年金が始まったりするなど、各方面で導入が進んでいる。

ヘルスケアマーケット・ジャパン

 5番目に登壇したのは、介護福祉士の資格を持ち、実際に4年間介護の現場で働いた経験を持つ代表取締役の坪井俊憲氏が起業したヘルスケアマーケット・ジャパン。同社が手がけるのは介護人材マッチングサービスの「ユアマネージャー」だ。

ヘルスケアマーケット・ジャパン 代表取締役 坪井俊憲氏
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 介護事業所に登録している、訪問介護に従事する登録ヘルパーをターゲットとする。現状は訪問介護のニーズと事業所による管理に大きなズレが生じており、「人手不足と言われているにもかかわらず、1日8時間拘束して4時間しか働けなかったり、移動とムダな待機時間が発生したりといったことが多い」(坪井氏)。

 ユアマネージャーはこうしたムダをなくすためのWebサービスで、複数の訪問介護事業所のニーズを把握し、登録ヘルパーに対して派遣情報をコーディネート。ヘルパーが働きたい場所と時間帯を適切に提案することで労働の効率化を図る。

 一方、ITリテラシーが高くない人たちが混乱しないようにこれまでの業務フローを変更せず、混乱を招かないように配慮している。そして坪井氏は「いつの間にかIT、いつの間にかAI(人工知能)で便利になればいい。その結果として、日本の介護力を最大化していきたい」と結んだ。

ユニロボット

 最後に登壇したのは、小型のコミュニケーションロボット「ユニボ」を紹介したユニロボット 代表の酒井拓氏。高齢者の音声アシスタントデバイスとしてロボットを役立てることを目的とし、「シニアマーケットの社会的課題を包括的に解決したい」(酒井氏)とする。

ユニロボット 代表 酒井拓氏
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 酒井氏がロボットに着目したのは、高齢者にとってスマートフォンが難易度の高いデバイスだからだ。「スマートフォンが当たり前の時代だが、高齢者は上手く使いこなせない。多くの高齢者は耳で聴き、発声して、日常生活を過ごす。会話ですべての指示ができ、ほしい情報が必要なタイミングで入ってくる仕組みがあれば、高齢者もQOL(生活の質)を大きく向上できると考えた」(酒井氏)。

 次世代コミュニケーションロボットにはPepperやロボホンなどすでに先駆者がいる。その中でのアピールポイントは「難易度の高い日常会話の実現と、利用者の個性を学習する機能」(酒井氏)である。会話を重ねながら利用者の趣味嗜好を学習し、次の会話では新たな雑談につなげる。こうした自然な会話によって認知症を予防。服薬忘れ防止なども可能だという。

 学習機能には独自開発のパーソナライズAIを採用した。センサーと連携したIoT機能も備え、「運動情報、体温、心拍といった生体情報をクラウドで管理することも可能。病院などで有効活用できる」(酒井氏)としている。ゆくゆくは開発環境のSDKを提供し、ユニボを中心としたエコシステムを構築する計画もある。現在のところ本体価格は1体10万円、月額5000円のAI利用料を想定する。2017年秋には大手百貨店を皮切りに販売をスタート。2018年末には世界展開を目論む。

最優秀賞は…

 ピッチ終了後、関係者らによる審査が行われた。その結果、最優秀賞にはMoffが選ばれた。同社の高萩氏は、「ピッチコンテストは何度か経験があるが、最優秀賞は初めて」と喜びの言葉を述べた。

表彰の結果、Moffが最優秀賞、ユニロボットがInnovation for Wellbeing賞を受賞した
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 この他、Innovation for Wellbeing賞として、ユニロボットが選出された。同賞は賞金30万円に加え、SOMPOケアグループの介護現場にて実証実験をする権利を得られる。「いつかドラえもんのようなロボットを作って世の中に貢献することを考え、ようやく少しずつ前が見えてきた。今後も実証実験を重ねながら前進したい」(同社の酒井氏)と語った。