多くの福祉大国を育んできた欧州で、“自助努力による健康長寿国家”への大転換が始まった。そのさなかにあるのが、オランダだ。国王の肝いり、国を挙げたPHR(personal health record)推進プロジェクトが2016年に立ち上がった。全国民の参加を目指すプロジェクトの全容とは――。

講演する遊間氏
講演する遊間氏
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 国際社会経済研究所(IISE)が2016年3月21日に東京都内で開催した「IoT・AI時代の健康寿命延伸」と題するシンポジウム。登壇した同社 情報社会研究部の遊間和子氏は「オランダにおけるPHRを中心とした健康寿命延伸への取り組み」と題し、同国がデジタルヘルス分野に力を入れる背景やPHR推進プロジェクトについて語った。

 オランダは日本の九州とほぼ同じ面積の国土に、1700万人が暮らす。人口密度が高く、高齢化率は2015年時点で18.2%である。2013年に新国王が即位。即位後の議会演説で「従来型の福祉国家は終わった」と発言し、国民が健康増進への自助努力をする「参加型社会」への転換を打ち出した。

 この背景には、オランダの財政悪化があると遊間氏は指摘する。経済の伸び悩みから大規模な歳出削減へ舵を切り、ヘルスケア分野でもより効率的で効果的な政策運営へと転換した。これを受けて予防に比重を置いたICT活用型の医療・健康基盤、いわゆるeHealthへの取り組みが強化された。

 全土で進むスマート化の動きもこれを後押しする。通信事業者大手のKPNが2016年、IoT向け低電力長距離通信「LoRa」をオランダ全土に導入。サイバーセキュリティーの産業クラスターがハーグに形成されるなど、ヘルスケア分野で重要なセキュリティー技術の基盤も同国にはある。