状態が違えば、解は1つに収束しない

 多様性を考慮せずに1つの標準解を与えてしまっている例として、「今の医学は病気を症状で評価していること」を桜田氏は挙げた。例えば、頭が痛いとかどこが腫れているとか、症状のみから原因を見つけようとしている。個人のヘルスケアにおいても、“肩が痛いから湿布を貼る”といった入出力モデルが経験的に行われている。

 しかし、生物は非線形システムなので複数の要因が相互作用している場合があり、それらをバラバラにコントロールしても根本的な解決には至らないと桜田氏は指摘する。例えば、高齢者医療においてたくさんの薬を投与した結果、非常に大きな副作用が出ることがその例だとする。

 これから作るべき新しいプラットフォームは、「(症状だけではなく)現在の状態を考慮することが求められる」と桜田氏は話す。現在の状態とは、病歴や年齢など個人の多様性に当たる部分だ。例えば、機嫌が良いときに多少嫌なことを言われても気にならないが、調子が悪いと少しのことでかっとなった経験を誰もがしているだろう。このように、「状態が違えば応答も違うことを考慮する必要がある」(同氏)というわけだ。

 では、具体的に人の状態をどのように数値化するのか。例えば、カメラで写真を撮るときに、被写体が笑顔になったらシャッターを押すという機能がある。これは、人が笑った画像をAIに学習させて、表情を数値ベクトルとして表し、あるパターンになると“笑っている”と判断するシステム。これを応用すれば人の状態を数値化できるのではないかと語る。