サスメド

 次に登壇したサスメドは、デジタル技術による睡眠医療の社会実装を目指している企業。上野氏によれば「東京都民は世界で最も睡眠時間が短い」とのことで、生産性の向上や働き方改革などが叫ばれる昨今、「睡眠時間が短いままで問題はないのか」と疑問を投げかける。

サスメド 代表取締役の上野太郎氏
サスメド 代表取締役の上野太郎氏
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 実際、臨床研究では不眠によるさまざまな健康への影響が分かっている。昼間の眠気や倦怠感などに加えて、メタボをはじめとする身体疾患やうつ病の発症リスクの増加、仕事の能率・生産性の低下、交通事故や産業事故の誘引などが挙げられている。さらに、睡眠障害により日本の経済損失は「年間3.5兆円にものぼることが判明している」(上野氏)。

 このような背景にあって、日本の睡眠医療では「人口当たりの睡眠薬処方量が米国の6倍にもなる」というデータがある。もちろん、これで不眠症などが完治すればよいのだが、慢性不眠症患者の半数にしか反応が出ていないという厚生労働省のデータがあるほか、反応した患者の半数はまた再発してしまうという問題を抱えている。さらに、耐性形成や依存形成、高齢者の転倒骨折の副作用も問題となっている。

 これらの問題に対して、アメリカ国立衛生研究所(NIH)ではファーストチョイスとして「認知行動療法」が取られている。認知行動療法は臨床心理士が実施するものだが、現在の日本では国家資格になっておらず保険も適用されない。そのため、日本の一部の専門医療機関では約5万円をかけて実施するという状況にあり、結果として日本では通常の医療機関での睡眠薬処方量が増えてしまう傾向にある。

 そこでサスメドは、人手を介さずに認知行動療法を実装したいと考え、「認知行動療法をソフトウエア(アプリ)で実装することを試みている」(上野氏)。このソフトウエアは最終的に医療機器としての認可を目指しており、2016年秋から臨床試験を実施している。なお、精神科領域の介入に対してはある程度のプラセボ効果が出てしまう可能性がある。そのため、今回は介入試験で最も難しいとされる「プラセボ対照二重盲検比較試験」を行っているそうだ。

 ソフトウエアによる治療が実現すれば、現在の睡眠薬治療で発生する金銭的コストや時間的コスト、さらには副作用のリスクなどが抑制可能だ。上野氏は「最終的に睡眠薬よりも安くし、通勤・通学中でも治療ができるようなものを目指す」と説明した。

 ビジネスモデルとしては、睡眠薬に代わるものとして医療機関で処方されることを目標としている。それ以外にも、健康保険組合や企業人事、一般ユーザーなどへの販売を見据えているそうだ。