「我々のマインドセットは数年前に比べるとかなり変わった」――。厚生労働省が2017年7月に新設した次官級ポスト、医務技監を務める鈴木康裕氏はこう語る。その一端を示すのが、医療系ベンチャー支援に力を入れ始めたこと。もっぱら経済産業省の担当領域と考えられてきたベンチャー育成に、厚労省も積極的にコミットする姿勢を見せている。
慶応義塾大学医学部が2018年1月28日に開催した「第2回 健康医療ベンチャー大賞」決勝大会のシンポジウムにパネリストとして登壇した鈴木氏は、医療系ベンチャーへの期待やイノベーション支援に対する考え方を語った(関連記事1、同2)。
医療界の現状に関して鈴木氏がまず指摘したのが、製薬業界の変化である。低分子医薬品に代えてバイオ医薬品が台頭してきたことなどを背景に、ヒットアンドエラー方式の創薬よりも、臨床現場の課題に基づくデマンドドリブン型の創薬が重視されるようになった。これは臨床側のニーズを起点とする創薬、すなわち「医学部発の創薬がはばたく土壌が生まれた」(同氏)ことを意味するという。
厚労省はこうしたイノベーションを後押しすべく、2017年4月に医政局経済課にベンチャー等支援戦略室を設置。同年7月には「第1回 医療系ベンチャー振興推進会議」を開催し、医務技監も含めて省横断的にベンチャー支援策を講じる方針を明らかにした(関連記事3)。資金調達や企業とのマッチングなどに関して、伴走型支援を提供していく。
再生医療製品や医薬品、医療機器に関する条件付き早期承認制度も導入した。安全性が担保された製品については、有効性などの詳細な検証は承認後に行えるようにし、早期の実用化を後押しする。革新的な製品開発に挑むしきいが下がることで、ベンチャーにもチャンスが生まれる。
必ずしも臨床医としての貢献でなくても…
ベンチャー支援については、医療財政面からも効果を見込んでいる。鈴木氏は、一人の医師を育てるには多額の費用がかかるとしながらも、そうした投資を必ずしも臨床医としての貢献という形で回収する必要はないと話す。すなわち「医療へのAI(人工知能)活用など、医療の新しいフレームワークに貢献することによってもペイバックできる」。ベンチャー支援の狙いの一つは、まさにそうした人材を育てることにある。
ベンチャーは起業当初から世界を目指してほしいとも訴えた。そうした視野を持てるかどうかが勝負の分かれ目だと指摘する。「我々も座して待ってはいない。どうやって前に出て、(医療の)安全性を担保しつつ高いクオリティーを確保できるかを考えていく」と厚労省の姿勢を説明した。