各スタッフの活動メモから始まったおひさまシステム

 当初、やまぐちクリニックの情報共有の仕組みは、非公開のブログを患者ごとに立ち上げ、連携するメンバーが患者に関する情報を書き込むものだった。「患者さんが少ない頃はブログを用いた情報共有でも使えましたが、患者数が500人を超えるようになると運用が困難になりました」(山口氏)。そこで、山口氏自身がFileMakerを用いて患者基本情報、診察や電話問い合わせ内容などの活動内容を蓄積するデータベースを構築した。

 当初のシステムは、あくまでメディカルスタッフの利用が目的で、24時間体制の受付・緊急連絡窓口として用いるほか、患者家族・関連医療機関・介護機関との各種連絡や調整を支援するための患者情報の保存・共有を目的としていた。そのため、メディカルスタッフが必要とする機能を随時、追加・拡張して、おひさまシステムへと進化してきた。

 「医師や訪問看護師は、他のスタッフが記録する情報すべてを必要とするわけではありません。当グループでは、どの情報をどのスタッフに伝えるべきかを判断する専門職であるメディカルスタッフがいますので、まずは医療スタッフが記録すべき活動情報を蓄積することに主眼を置いて機能追加してきました」(山口氏)。

 山口氏によると、情報には、診療記録や検査データなど、客観性が高く共有が容易な“粘着性の低い情報”と、患者の気持ちや訪問したスタッフの気づきなど、読み手によって意味が変わってしまうような“粘着性の高い情報”があるという。「粘着性の高い情報は各自が記録しておけばよく、共有する必要性があるときには、メディカルスタッフが根拠となるデータとともに伝達します」と説明する。

 おひさまグループのこうした情報蓄積・共有システムの考えは、試行錯誤するうちに形づくられてきたものなので、要件定義のようなものは存在しない。「メディカルスタッフの要望や、“こんなものがあったらいいな”と思うものを形にしてきました。システムの最終形が見えない中での開発だったため、FileMakerでなければ対応できませんでした」と山口氏は振り返る。

株式会社未来Switch代表取締役の片岡達博氏
株式会社未来Switch代表取締役の片岡達博氏

 そのおひさまシステムの開発を担当してきたのが、FileMaker認定デベロッパーである株式会社未来Switch(大阪市北区)の片岡達博氏だ。同氏が以前勤務していた会社でグローバルメディックから在宅医療支援システムの開発コンサルティングの依頼を受け、プロジェクトがスタートした。同社設立後も山口氏とともに機能のアイデアや運用ノウハウを検討しながら開発を行っている。