カメラやプリンターはもはや「先端産業ではない」

 もちろん、創業者から受け継いだ“思い”だけで東芝メディカル買収を決めたわけではない。既存事業に対する御手洗氏の強い危機感が、背景にはある。

 キヤノンが主力とするカメラやプリンターは市場の「成熟化が進み、売り上げの飛躍的拡大が期待できない」(御手洗氏)状況にある。先進的な技術を投入しているにもかかわらず、売り上げが伸びない。このことはカメラやプリンターがもはや「先端産業ではなく、産業そのものが成熟化していることの表れ」だと御手洗氏は認める。

 そこでこの数年、同氏はキヤノンに新たな成長をもたらす事業を模索してきた。その結果、「世界的な人口増による市場拡大を取り込み、成長を続ける」(御手洗氏)と読んだのが、安心・安全にかかわる産業である。中でも、キヤノンの強みとの親和性などを考慮して注力事業に選んだのが、ネットワークカメラとヘルスケアだ。

 ネットワークカメラではかねて企業買収による競争力強化を進めており、期待通りの成果が得られつつあるという。ヘルスケアについては今回、「画像診断で世界4位の座にあり、世界最高水準の技術と強力な販売網を持ち、我々の医療機器事業との重なりもない」(御手洗氏)点から、東芝メディカルに狙いを定めた。同社の買収によって、ネットワークカメラと併せて「安心・安全の領域で2つの巨大な橋頭堡を築き、今後の成長への基盤をつくれた」と御手洗氏は話す。

 6655億円という買収金額については「高いとか安いとかいった思いは、持っていない」(御手洗氏)とした。「我々が一から(医療事業を)やろうとすれば、膨大な時間と資金を要し、しかも成功するとは限らない」(同氏)ことがその理由という。