訪問看護師の業務負荷を、社内SNSの活用で削減する。そんな取り組みを、ケアプロが実践している。規模の大きい訪問看護ステーションならではの情報共有の難しさを克服し、看護師1人当たりの業務時間を1日30分~1時間ほど減らしたという。訪問看護ステーションの大規模化がこれからの潮流となりつつある中、その際に生じる課題をITの活用で解消した同社の事例を追った。

2011年4月に山陽自動車道の一部のサービスエリア(SA)とパーキングエリア(PA)において実施された「ワンコイン健診(現:セルフ健康チェック)」の様子
2011年4月に山陽自動車道の一部のサービスエリア(SA)とパーキングエリア(PA)において実施された「ワンコイン健診(現:セルフ健康チェック)」の様子

 創業時から駅ナカやスーパー、ショッピングセンターなどで500円で気軽に血液検査ができる「ワンコイン健診(現:セルフ健康チェック)」を手掛けてきたケアプロは、2017年12月に創業10年を迎えた。同社がこのセルフ健康チェック事業とともに、もう一つの柱として手掛けているのが、訪問看護事業である。現在、東京都の中野区と足立区にある2つの訪問看護ステーションを運営している(中野のステーションには居宅介護支援・ケアマネ事業所を併設)。

 ケアプロの訪問看護ステーション特徴の一つは、その規模だ。中野と足立のステーションに、それぞれ15人もの常勤看護師を抱える。24時間対応できる体制を備えることや重症者の対応件数、一定の常勤看護師数などの要件を満たす場合に2014年度診療報酬改定から評価されることになった「機能強化型訪問看護ステーション」でもある。

 ただし、ステーションが大規模になると、それに伴う訪問看護師の業務課題も生まれてくるという。「看護師が2~3人のステーションならまだしも、7~8人を超えてくると、情報共有の進め方が大きな課題になる」。ケアプロの前田和哉氏(ケアプロ訪問看護ステーション東京 在宅医療事業部 事業部長)は、こう語る。

「検索」に多くの時間が割かれる

 ケアプロではかねて電子カルテを導入し、PC端末だけでなく全スタッフに貸与したiPhone(当初はiPad)からいつでもどこでも電子カルテの閲覧や記入をできるようにしてきた。訪問看護の領域では紙カルテが主流の中、これだけでも先駆的な情報共有の取り組みといえる。

全スタッフに貸与したiPhone(当初はiPad)からいつでもどこでも電子カルテの閲覧や記入をできるようにしている(写真提供:ケアプロ)
全スタッフに貸与したiPhone(当初はiPad)からいつでもどこでも電子カルテの閲覧や記入をできるようにしている(写真提供:ケアプロ)
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 しかし訪問看護師の間では、患者の近況や申し送りなど、カルテに記入する情報とは別に共有をするべき情報が少なくない。年間約300人(常時200人+100人の入れ替わり)もの患者に対応しているケアプロの訪問看護ステーションの場合は、なおさら多くの情報が飛び交う。

 こうした情報共有に、既に導入している電子カルテを活用することは難しいという。「(訪問看護領域の)電子カルテはレセプト請求のための必要最低限のチェックボックスが用意されている仕様のものが多く、記載欄は十分用意されていないため、その他の共有情報を書き込めない」(前田氏)。

 そのためケアプロでは、電子カルテ以外の共有情報のやり取りに電子メールを利用していたが、課題があったと前田氏は振り返る。いまだ多くの訪問看護ステーションで実施されているFAXでの情報共有よりは優れているとはいえ、情報の「検索」に訪問看護師の多くの時間が割かれていたというのだ。「例えば、新しい患者を担当する場合、その患者の過去の情報を調べる。ところが、電子メールの受信ボックスに混在している多くの情報の中から、知りたい情報を患者別や時系列別に検索することがとても大変で、時間がかかっていた」(前田氏)。

 電子メール自体の検索性がそれほど高くないという点はもちろんだが、理由はそれだけではない。患者名はメール件名に入れることが多いというが、例えば「斉藤さん」の「斉」の字が数種類あったり、外部(社外)への誤送信対策として「山田花子(仮名)」という患者の名前を「山○花○」にしていたりする。「とても検索で引っかからなかった」と前田氏は指摘する。