「線虫」と呼ばれる生物を使って、1滴の尿からがんを早期に検知する――。そんな新しいがん検査法「N-NOSE」の実用化を目指す九州大学発ベンチャーのHIROTSUバイオサイエンスが、エイベックス・マネジメントと手を組んだ。

 両者の狙いは、エンタテインメントの力を使って、がんの検診率を向上させることである。2018年6月にはがん検診率向上のためのPR活動を行う合同会社 AVEX&HIROTSU BIO EMPOWERを立ち上げた。HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役の広津崇亮氏とAVEX&HIROTSU BIO EMPOWER 代表の保屋松靖人氏は、「Health2.0 Asia-Japan 2018」(主催:Health 2.0社、メドピア)に登壇し、合同会社設立の経緯や狙いについて語った。

「Health2.0 Asia-Japan 2018」の「バイオ×エンタメ!?社会を変革するオープンイノベーション」のセッションの様子
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出会いのきっかけは、子供のがん

 両者がタッグを組むことになったきっかけは、保屋松氏の子供が小児がんを患ったことだったという。国内では毎年2000~2500人の子供が小児がんを発症するが、「早期に発見する方法がない」と保屋松氏は話す。そんな折に広津氏らが開発するN-NOSEの技術を知り、「世の中からがんで苦しむ人をなくしたい」という両者の思いが一致して合同会社設立に至ったというわけだ。

HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役の広津崇亮氏
HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役の広津崇亮氏
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 N-NOSEは、1滴の尿を使って嗅覚が優れている線虫が、がんがあるかどうかをスクリーニングするという技術である(関連記事)。線虫は健常者の尿からは離れるが、がん患者の尿には寄っていくという性質を利用した。尿を採取すればよく、痛みが伴わないので「小児がんの検査にも使えるのではないか」と広津氏は期待する。

「N-NOSE」の概要
「N-NOSE」の概要
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 2020年の実用化に向けて研究を進めており、現在までに胃がんや大腸がん、肺がんなど18種類のがんのスクリーニングに有用であることが分かっている。特に早期がんの検出に有効であるいい、「N-NOSEではステージ0やステージⅠのがんを87%の精度で検知できるという結果も出てきた」(広津氏)。がんの種類を特定する前に、がんがあるかどうかを調べる一次スクリーニングの検査として実用化したい考えだ。