「時間との勝負」である脳血管疾患治療にスマートフォンアプリで挑む。東京慈恵会医科大学付属病院が導入した「Join」は、こうした狙いで開発されたアプリだ。今後、医療現場でのスマートフォンやアプリの活用が拡大していくと見込まれる中、単体のソフトウエア(アプリ)として初めて保険適用となったことでも注目を集めている「Join」とは、一体どんなものなのか。その効果を聞いた。

 「一度、このアプリを使った医師は、必ず次も使いたいと話す。他の病院に異動しても、その病院にアプリを導入したいと言うほどだ」。東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究講座准教授で、脳神経外科医の高尾洋之氏はこう話す。

「脳卒中治療の時間との闘いにアプリを生かす」と意気込む東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究講座の高尾洋之氏
「脳卒中治療の時間との闘いにアプリを生かす」と意気込む東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究講座の高尾洋之氏

 東京慈恵会医科大学付属病院で導入した「Join」は、複数の医療関係者間でコミュニケーションをとるためのアプリだ。チャット機能を持ち、CTやMRI、心電図など各種の医用画像や手術室内の映像をリアルタイムに共有することもできる(図1)。あらかじめ登録した医療関係者だけが情報をやりとりできる、いわばクローズドなSNS(Social Networking Service)と言えば分かりやすいだろう。

 病院情報システム(HIS:Hospital Information System)と連携する機能を備え、DICOMビューワでの医用画像表示(拡大/縮小/階調変更など)が可能。データのやりとりはクラウド(米Amazon.com社のパブリッククラウド)を活用しており、アプリはiOSとAndroidの両方に対応する。ちなみにDICOMとは、CTやMRIで撮影した画像のフォーマットとそれを共有するための通信プロトコールを定めた、米国放射線学会などが作った標準規格のことだ。

図1●Joinの画面例
図1●Joinの画面例
Joinでは、スマートフォンを使って、チャットや医用画像の共有、手術室内の映像共有などが可能。(高尾氏の資料を基に本誌作成)

 このアプリを開発したのはベンチャー企業のアルム(東京都渋谷区)。そして、医療現場の視点から開発に協力したのが、脳動脈瘤の治療に使う塞栓用コイルを開発したことでも知られる東京慈恵会医科大学脳神経外科教授の村山雄一氏らのグループである。高尾氏は同グループの中心的存在としてかかわった。開発の狙いは、脳血管疾患治療における「時間との勝負にスマホアプリで挑む」(高尾氏)ことだ。

 脳梗塞治療においては、発症から3時間以内に脳血栓溶解剤t-PAを投与したり、8時間以内に血栓除去デバイスによる血管内治療を実施したりすれば、後遺症を軽減できる可能性が高いとされる。発症後、いかに迅速かつ適切に処置できるかどうかで、患者の生死や予後が大きく左右される。

 しかし、専門医が緊急時対応のために病院に24時間常駐するのは現実的ではない。また、その場にいる医師一人で解決できることも限られている。そこで、スマホアプリを活用して、緊急時のチーム医療を実現する環境を構築しようというのが高尾氏らの取り組みだ。

 例えば、専門医が院内にいなくても、脳梗塞を発症した患者が搬送された病院で撮影された検査画像などが専門医のスマホで閲覧できる。そうすれば専門医がどこにいても、画像を見て治療に必要な処置のアドバイスをすることが可能になる。D to D(Doctor to Doctor)の遠隔医療を支援するツールがJoinなのだ。