バーチャルな化合物から候補を絞る

 NVIDIA社が推進するGPUベースのコンピューティング技術は、大きく2つの領域で創薬に生かせると山田氏は話す。一つは分子動力学(MD:Molecular Dynamics)シミュレーション、もう一つは量子化学シミュレーションだ。

 分子動力学シミュレーションでは、薬のターゲットとなるたんぱく質と、薬の候補物質となる化合物の結合強度(結合自由エネルギー)を計算で見積もる。この際、GPUをうまく活用することで、CPUに頼る従来の演算システムに比べて数倍から数十倍の高速化が可能という。NVIDIA社はアプリケーションベンダーと連携することで、GPUの性能をより引き出せるようなシミュレーション用アプリケーション開発も支援している。

 ただし現時点で、分子動力学シミュレーションではGPUベースの演算能力のポテンシャルを十分に引き出せていないと山田氏は指摘する。実験で明らかにした結果を理論的に裏付けようと、シミュレーションが後付けで行われることが多いためだ。これに対して今後は「“前向き”の利用に期待したい。先に計算を行い、バーチャルな化合物の中から(ターゲットと)強く結合しそうなものをふるいにかけるという方法だ」(山田氏)。

 一方、量子化学シミュレーションでは分子の静的な電子配置やポテンシャルを演算で見積もる。この演算もGPUで高速化できるものの、分子動力学シミュレーションに比べると高速化の難易度は高く、GPUによる十分な効果はまだ実証できていないという。量子化学シミュレーションには分子サイズの4乗に比例して計算量が増えてしまうといった難しさがあり、これを現実的な計算量に落としこむための手法を取り込んでいく。