元プロ野球ドラ1選手が挑む動作のデータ化

回旋を考慮した運動解析でケガをさせないトレーニングを

2016/11/16 04:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
元プロ野球選手で理学療法士の栗田聡氏
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 「ドラフト1位指名を受け、球界を代表する選手になるはずだった。しかし、1軍登板前に肩を痛めてしまった」――。噛み締めるようにそう語るのは、元プロ野球選手で理学療法士の栗田聡氏。同氏は自身がケガで苦しんだ経験からプロ野球選手初の理学療法士になった。「野球少年の夢をケガで終わらせたくはない」(同氏)。

「Live Trac」
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 現在は、自身の知見を定量化し、新しいトレーニングやストレッチを開発することを目指している。そのために活用しているのが医療系スタートアップ企業のprimesapが手掛ける高速・高精度運動動作解析ソリューション「Live Trac」だ。

 Live Tracは人間の動きを3次元で分析することにより、負担がかかる場所を特定することができるソリューション。手首や上腕、大腿骨など体の各部位に装着するバンド「アンカーシステム」と、アンカーシステムに搭載する慣性センサーから成る。

アンカーシステム
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アンカーシステム装着イメージ
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 各部位の動きは慣性センサーで追従する。その際、特定の1点の座標の動きを追っても、上下左右に動かしたのか回旋したのかはわからない。そこでアンカーシステムを、各部位を一周覆う形状にし、各部位の動きを点ではなく面で追うことで、回旋の動きを正確に捉えられるようにした。

栗田氏がLive Tracを装着した状態で披露した投球フォーム
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 primesapが2016年10月27日に開催した発表会では、栗田氏が腕にLive Tracを装着し、故障しやすさに応じた投球フォームを実演した。手首とひじの内側・外側、前腕・上腕にセンサーを装着し、それぞれがどのように回旋しているかをセンサーで検知する。これまで「骨の直線的な動きを捉えられるセンサーはあったが、回旋を考慮したものは初めてだろう」(栗田氏)。

primesap 代表取締役の木村岳氏
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 投球フォームを解析した結果、「良いピッチングほど前腕の骨がぶれないことがわかった」(primesap 代表取締役の木村岳氏)。自身の経験も踏まえて、「良い投げ方は余分な動きがない」と栗田氏は話す。センサーを使って投球フォームのデータを蓄積し、フォームやテクニックなどの細かい動きの矯正や故障しやすさの指標化を目指している。Live Tracは2017年にスポーツ選手のトレーニングやリハビリテーションに活用することを狙う。

データ化でトレーニングを見直す

 プロ野球の世界でもこれまでの経験や感覚を基にした指導が行われるが、「そうしたトレーニングやリハビリテ―ションの方法が合っているかはわからない」(栗田氏)。人の動作を正確に解析することで、これまでのトレーニングを見直す狙いもあるという。

 例えば、同じ動作をしてもケガをする人とそうでない人がいる。これについて栗田氏は、前段階としてさまざまな要因が存在するためだと考えている。「Live Tracを使ってその要因を探すことができれば、ケガをさせないトレーニングやリハビリテーションが実現できる」(栗田氏)。練習ではできていたパフォーマンスが本番でできなくなることも、「運動のデータ化で改善できるかもしれない」(栗田氏)と話す。

動作データから良い投球フォームと悪い投球フォームの比較を行う
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 1人のアスリートの選手生命は、アスリート自身の努力はもちろんのこと、コーチや臨床医によって支えられている。運動のデータ化は、「さまざまな立場の人のコミュニケーションを助けるための共通言語としても使えるのではないか」(木村氏)。

Live Tracを足に装着した図
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発表会では足にLive Tracを装着した状態の動作追跡も行った
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医療現場にも導入へ

 Live Tracは、インテルとABBALabが企画した「Edisonスカラシッププログラム」にprimesapが2015年5月に採択されたことを受けて開発された。現在のLive Tracにはインテルのコンピューターモジュール「Intel Edison」が使われている。2017年1月には同社のコンピューターモジュール「Intel Curie」に変更したデモ機をリリースする。これにより小型化と処理の簡略化が期待できるという。

発表会に登壇したprimesap 最高医療責任者で昭和大学 整形外科講座 客員教授の渡邊幹彦氏
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 2017年4月からは、primesap 最高医療責任者で昭和大学 整形外科講座 客員教授の渡邊幹彦氏が院長を務める東京明日佳病院に開設するラボ施設でLive Tracの活用を予定している。骨格の動きを追従して骨軸の回旋をみる、整形外科用途として使用するという。「関節可動域(ROM)測定の簡便化に役立つと期待している」(渡邊氏)。

 primesapが目指すのはLive Tracを提供することに留まらない。「アスリートが長くパフォーマンスできるよう支援したい」と木村氏は意気込む。

アスリートから寝たきりの状態まで

 Live Tracに加えてprimesapが手掛けるのが予測型看視・対話型遠隔リハビリテーションソリューション「Life Trac」。スポーツ向きのLive Tracに対してLife Tracは見守りや遠隔リハビリに使用する。Life Tracはベッド付近に設置する「On Bed Sensor」と身に着ける「On Body Sensor」、浴室用の「Computer Vison」の3種類がある。

 ベッドサイドに設置するOn Bed Sensorは、照度や温度、気圧を測定するセンサーを搭載し、人が過ごす環境を見守るもの。バイタルデータの測定と組み合わせて、個々人が安眠できる温度設定など、人が快適に暮らせる環境づくりの提案にもつなげたい考えだ。環境見守りセンサーとして東京明日佳病院の病床に導入する予定。

 On Body Sensorは、Live Trac同様にアンカーシステムと慣性センサーから成る。高齢者の見守りとして使用し、体の動きをモニタリングすることで転倒を検知する。さらに疾患が原因で転倒した場合、どのような疾患の発作を起こしたのかを推定するという。「脳疾患と心疾患では、それぞれ発作が起きた際の転倒の軌跡が異なる。疾患による転倒をパターン化し、どの疾患の発作を起こしたかも推定できるソリューションを目指している」(木村氏)。

 浴室に設置するComputer Visonは、浴室での転倒をモニタリングするもの。プライバシーに配慮したものを開発しているという。