人の知能をどこまで再現できるか

 AIを活用する研究は国内外で数多く取り組まれている。ここで総称される「人工知能(AI)」とは、「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」を総称したもの(総務省の2016年版情報通信白書)。つまりは、人の知能を人工的に実現することを目指し、データをもとに認識や探索、予測、制御を行う情報技術の集合体を指す(図1)。

図1 人工知能の代表的な用途
図1 人工知能の代表的な用途
現時点では、人の知能の様々な能力を一つずつ人工知能で再現することを目指している。
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 人の知能は、様々な能力が組み合わさったもの。現時点では物を見て存在を認識する、言葉を操るなど、一つひとつの能力を再現することを目的に研究や開発が進められている。

 実用化も進んでいる。身近な例としては、インターネットの検索エンジン、スマートフォンの音声応答アプリケーションである米Appleの「Siri」、Googleの音声検索や音声入力機能、米アイロボットの「ルンバ」をはじめとする各社の掃除ロボットなど。AIを搭載した人型ロボットとしては、ソフトバンクロボティクスの「Pepper(ペッパー)」などが商品化されている。

 AIの技術開発が進む中で、特に医療分野で応用が期待されているのが「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術だ。多くの情報をAIに学習させることで情報同士を関連付け、個々の関連の重み付けを変更する処理を重ねて、物事を認識する。例えば、AIに「ネコ」の画像を大量に学習させ、その後に別の画像を示したときにそこに描かれたものがネコかどうかを認識できるようにするといった技術だ。

 冒頭の東大医科研の研究も、遺伝子配列と血液腫瘍に関する多数のデータ、治療薬に関する情報などをAIのワトソンに学ばせて関連付けと重み付けの処理を重ねている。そうして賢くなったワトソンに血液疾患の患者の症状と遺伝子配列を提示すると、鑑別疾患を推論する。加えて、その疾患に効果があると推測される薬剤も示すというわけだ。

 「ワトソンは与えられた情報を基に独自で推論を進める。結果を出す過程でワトソンが誤った推論をしている場合もあり、ワトソンが示す意見は全て正しいわけではない。現時点ではワトソンの判断が正しいかどうかを見極めながら微調整を続け、さらに精度を上げるために新たなデータを追加しているところだ。今後、より多くの情報を学習させることで、ワトソンの推論の精度は向上していく」と宮野氏は話す。