メトホルミンは何に作用?

 人工知能やスパコンの進化により、今後は「短期間に無数の革命的事象が生じる」と“特異点論者”を自認する齊藤氏は話す。かつては数十~数百年単位でしか起きなかったような人類史上の革命的変化が、2030~2045年に向けて立て続けに起こるとの予測だ。医療や生命科学の領域も例外ではない。

 2016年3月、糖尿病治療薬「メトホルミン」が消化器系がんに対して治療・予防効果を持つ可能性が明らかになった――。人工知能やスパコンが医療にもたらすインパクトを語る上で同氏が挙げたのは、こんな事例である。

 メトホルミンは古くから使われている糖尿病治療薬であると同時に、老化を抑える作用を期待されている。さらに今回、消化器系がんに対する効果が明らかになった。

 これらの事実は一見、メトホルミンが「病気」「老化」という別個の生命現象にそれぞれ効果を発揮するように見えるが、実際には糖尿病・消化器系がん・老化に共通する「未知の状態や概念が介在するのかもしれない」(齊藤氏)。つまり、生命現象には人間に把握できる“1対1”の対応では捉えきれない「1対n、n対1、n対nの関係がたくさんある」(同氏)可能性がある。人工知能がこうした複雑な対応を次々と明らかにしていくことで、「医療や生命科学の固定概念を見直さなければいけない」(同氏)時代が来ると予想されるわけだ。