突発的事象に「時系列」解析で挑む

 プロジェクトの2つの出口のうち、「ヘルスセキュリティ」では大きく2つのテーマに取り組む。第1に、医療経済などを考慮に入れた、医療システムの継続性評価のためのモデル(シミュレーター)を開発する。第2に、心臓病を中心とする重篤な疾患について、その予見・先制のためのモデルを開発する。前者は主に公的医療ビッグデータを用いたマクロな分析に基づき、後者は主にセンサー端末などから集まる生体・環境計測データを用いたミクロな分析に基づく。前者は自治医科大と産業医科大学、東京大学、医療経済研究機構など、後者は自治医科大などが開発を主導する。

 プロジェクトリーダーを務める自治医科大の永井氏は、医療費高騰や医療従事者当たりの病床数の多さといった「日本の医療システムの問題に対し、快刀乱麻の解決策はない。データに基づいて現状や将来を見える化し、ステークホルダーの間で認識を共有したり納得感を得ることが大切だ」と話す。

パネルディスカッションで発言する永井氏
パネルディスカッションで発言する永井氏
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 今回のプロジェクトでは、心臓病など、患者の予後や医療費を大きく左右する疾患において「低い確率で多様かつ重篤な症状が起こる」(永井氏)ことに着目する。こうした症状の「発作は確率的に起こり、治療効果も確率的。(臨床試験で)統計的に有意とされた治療を患者全員に当てはめるようなやり方は通用しない」(同氏)。

 心臓病の症状を繰り返し悪化させる患者の中には、一般に心臓病との相関が強いとされるコレステロール値や血糖値は正常で、実は腎臓機能が悪いといったケースもあるという。このように、疾患の背景因子の特定は容易ではない。

 そこで今回は、従来の医療ビッグデータ解析で行われていたような「断面(ある時点)での解析ではなく、時系列での解析を行う。これにより、低い確率で起こる事象の背景因子に関するデータを集め、不連続な(健康状態の)変化を予測できるようにする」(同氏)。

 永井氏はこうした予測を「最終的にはAI(人工知能)が担うようになる」と見る。ビッグデータ解析や人工知能を駆使し、「これまでは“たまたま”“偶然”で片付けられてきた非決定論的な世界をコントロールする」(同氏)。そんな時代の到来を告げるのが、今回のプロジェクトだ。