ヤフーは2017年9月6日、一般向け(DTC)遺伝子多型検査のがん治療における有用性を検証する研究を、九州大学病院別府病院(大分県別府市)および別府市医師会と共同で開始すると発表した。がん患者の遺伝子多型情報を医師が閲覧するシステムを運用し、薬剤応答性や合併症リスクなどの予測にどのように役立つかを検証する。DTC遺伝子検査サービスでは利用者に開示してこなかった遺伝子多型情報も医師限定で閲覧可能とし、医療における有用性を明らかにする。

向かって左から順に、ヤフー執行役員の別所直哉氏、九州大学病院別府病院 外科教授の三森功士氏、別府市医師会会長の矢田公裕氏
向かって左から順に、ヤフー執行役員の別所直哉氏、九州大学病院別府病院 外科教授の三森功士氏、別府市医師会会長の矢田公裕氏
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 この共同研究では、患者のがん組織の遺伝子変異、および患者の唾液から解析した遺伝子多型の情報をともに医師が閲覧できるシステムを、ヤフーがクラウド上に構築。がん組織の遺伝子変異の情報を適切な薬剤選択につなげると同時に、治療効果や副作用、手術時の縫合不全や入院長期化などのリスクを、患者の体質や疾患リスクにかかわる遺伝情報である遺伝子多型から予測することを狙う。

 ヤフーと九州大学病院別府病院、別府市医師会は6日、東京都内で説明会を開催。研究を主導する九州大学病院別府病院 外科教授の三森功士氏は「かねて患者の(治療後などの)観察がおそろかになるのをカバーしたいと考えていた。術後合併症などに患者背景が関係することがあり、それを遺伝子多型で見ていく。フルゲノムシーケンスなどの解析手法もあるが、臨床情報との相関を見る上では、現時点で遺伝子多型解析に勝る方法はない」と研究の意義を説明した。

約5万の遺伝子多型情報を医師限定で開示

 ヤフーは、健康関連プロジェクト「HealthData Lab」の一環として2014年11月からDTC遺伝子検査サービス、すなわちインターネットを介した消費者直販型の遺伝子検査サービスを提供してきた。遺伝子多型(SNP:一塩基多型)の解析結果を基に、体質や疾患発症リスクに関する情報を提供するものだ。今回の研究ではこれをベースに、プロジェクトに参加する医師向けに次の5つの機能を提供する。

今回の取り組みの概要
今回の取り組みの概要
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 第1に、一般向けに提供している290項目500遺伝子多型の情報を閲覧できるようにする。

 第2に、一般向けサービスで解析している30万の遺伝子多型のうち、遺伝子多型データベース「GwasCatalog」に情報が収載されている約5万の遺伝子多型の解析結果を閲覧できるようにする。一般向けサービスは非医療扱いであるため、ヤフーのサービスでは利用者に開示する情報を500の遺伝子多型に関するものにとどめている。それ以外の膨大な遺伝子多型の情報を、今回は医師に限定して閲覧可能とする。

 第3に、注意すべき患者情報や解釈情報を担当医がメモとして保存し、それをプロジェクトに参加するクリニックの医師が参照するなど、医師間で情報共有できるようにする。第4に、九州大学病院別府病院が東京大学に解析を委託する患者のがん組織由来の解析情報を、医師が参照できるようにする。第5に、これらのデータ活用に関して、研究に参加する患者の意思を尊重したデータコントロールを行う。