脳内に蓄積・凝集することで、アルツハイマー型認知症を引き起こすといわれているアミロイドβ。アミロイドβの蓄積は、PET検査によって可視化することができるが、これまでは専用の放射性医薬品を医療機関で合成して用意する必要があった。

 ここにきて、この放射性医薬品が国内で初めて販売されようとしている。米イーライ・リリー・アンド・カンパニーが開発し、富士フイルムRIファーマが2016年12月に国内での販売承認を取得した「アミヴィッド静注(一般名フロルベタピル注射液)」がそれだ。これにより、わざわざ医療機関で放射性医薬品を合成する必要がなくなる。「近いうちに販売を開始したいと考えている」(富士フイルムRIファーマ 研究開発本部 製品企画部 部長で獣医師の寺嶋千草氏)。

フロルベタピル注射液を使ったPET検査においてアミロイドβを可視化した画像イメージ(画像提供:富士フイルムRIファーマ)
フロルベタピル注射液を使ったPET検査においてアミロイドβを可視化した画像イメージ(画像提供:富士フイルムRIファーマ)
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 現在の認知症検査は、神経心理検査や画像検査など包括的に検査を行った上で統合的に診断が下される。しかし、非定型的な症状が現れているためにこれらの検査では確定診断が難しい患者もいる。例えば、アルツハイマー型認知症にしては年齢が若かったり、アルツハイマー型認知症ではあまり見られない空間認識能や社会性が失われたりするなどの症状が現れている場合がこれにあたる。

 アミロイドβの可視化は、そんな非定型的な患者に対して確定診断を行うための新たな指標になる可能性がある。アミロイドβの蓄積は、必ずしもアルツハイマー型認知症患者にだけではなく、健常者にも見られる症状だ。しかし、アルツハイマー型認知症患者であれば、必ずアミロイドβが蓄積している。そこで、非定型的な患者の脳内にアミロイドβの蓄積が見られない場合、「アルツハイマー型認知症ではない」という診断を下すことができる。

 今回のアミヴィッド静注の販売は、アミロイドβを可視化する「アミロイドPET検査」の普及に向けた一歩となる。現在のところ、アミロイドPET検査は自由診療だが、少なくとも放射性医薬品の準備に関する障壁は低くなり、より多くの医療機関で検査を実施できるようになる可能性があるからだ。