ファイザーやバイエルも参画

 プロジェクト参画企業のうち、那覇市に本社を置くブルーブックスは健康・医療情報基盤(LHR)を、沖縄セルラー電話は通信基盤をそれぞれ提供。プロジェクトへの参加を予定する大手IT企業が、アプリの提供やAIを用いたデータ解析を担う。エムティーアイはデータ解析などに協力する。

 製薬業界から参加するファイザーは「科学・医療の観点から技術を提供するとともに、(このプロジェクトの成果から)医療や医薬に持っていけるものがあるかどうかを検討する」(ファイザーの瀬尾亨氏)。バイエル薬品は、心臓疾患や腎臓疾患の関連遺伝子などに関する知見を得ることに期待を寄せる。「デジタルヘルスが本当に役に立つのだと実証できれば、次の展開につながる」(バイエル薬品の高橋俊一氏)とし、同社が最近力を入れているデジタルヘルス分野の事業創出にもつなげたい考えだ。

 プロジェクトではまず、琉球大学での臨床研究の審査を2017年8~9月に実施。同年秋から実証事業を本格的に始める。「2017年度は数十人を対象とした小規模のパイロット研究を立ち上げ、2018年度からは数百人以上を対象とした大規模研究へシフトする」(琉球大学の益崎氏)。公立久米島病院や久米島町役場でプロジェクトに関する説明会を開催するなどして、参加者を集める。「後に何も残らない事業にはしない。久米島にとって長く役立つ仕組みを実現するとともに、疾患の新しい診断基準や予測法の開発にもつなげ、世界の疾患対策への大きなインプットにしたい」(同氏)。

公立久米島病院 病院長の深谷幸雄氏
公立久米島病院 病院長の深谷幸雄氏
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 今回のプロジェクトを構想し、立ち上げを主導した琉球大学大学院 医学研究科 教授の松下正之氏は「3年後にはっきりとした成果を出し、それを沖縄全体そして海外にも展開したい。地域医療の新しいモデルを示す試みでもあり、日本の地域医療にも貢献できると考えている」と話す。

 公立久米島病院 病院長の深谷幸雄氏は今回のプロジェクトを「個々人にとって何が必要か、どのような効果があるかにまで踏み込んだ予防医療や行動変容につなげたい」とする。「このプロジェクトがうまくいくと(患者が減少して病院の)経営は破綻し、私は首になるだろう」と会場の笑いを誘った。