1000万人規模の女性ユーザーを獲得したスマートフォンアプリを、不妊治療を始めとする婦人科診療に活用する──。デジタル時代の新たな診療スタイルを指し示す、そんな取り組みが新たに始まった。生理日や基礎体温など、日常のバイタルデータを診療支援や受診勧奨につなげる試みとしても注目を集めている。

 健康管理や妊活を目的に、月経日や基礎体温を日々、スマートフォンのアプリで管理する女性が増えている。そこに着目し、アプリに蓄積されていく女性の月経周期のデータを婦人科診療に活用する試みが、今年6月から東京都内の婦人科クリニックなど約20医療機関で始まった。

 活動量や血圧など、普段の生活で手軽に測れるデータをスマートフォンアプリで管理し、生活習慣病などのコントロール改善に活用する臨床研究はこれまでも数多く行われてきた。今回の試みがそれらと一線を画すのは、既に1000万人規模の女性ユーザーを獲得し、そのユーザーのデータが大量に集まっているアプリを使う点だ。

 このアプリの名は「ルナルナ」。ITサービス企業のエムティーアイ(東京・新宿区)の月経周期(生理日)管理アプリだ。サービス開始は2000年で、スマートフォンの普及とともに利用者が増え、有料会員と無料ユーザーを合わせた累計インストール数は1000万を突破した。同アプリを日々、継続的に利用しているユーザーは数百万人規模と推測される(関連記事:ルナルナ、ついに医師が使うアプリに)

 ルナルナでは、月経日や基礎体温を記録し管理できるほか、それらのデータから次の月経開始日や排卵日を予測してくれる(図1)。妊娠可能性の高い日を“仲良し日”として提示する機能もある。利用者の多さを背景とするビッグデータを活用することで、月経周期が不安定な女性に対しても月経日・排卵日を精度良く予測できる独自の機能を搭載している。妊活の支援だけでなく、出産や育児に関する助言など周産期のサービスにも力を入れている。

図1 生理日予測アプリ「ルナルナ」の画面イメージ
図1 生理日予測アプリ「ルナルナ」の画面イメージ
[画像のクリックで拡大表示]

エムティーアイ・ルナルナ事業部の日根麻綾氏は「ユーザーは月経周期をアプリに継続的に記録するのを習慣化することに、違和感を覚えなかった」と紹介する。
エムティーアイ・ルナルナ事業部の日根麻綾氏は「ユーザーは月経周期をアプリに継続的に記録するのを習慣化することに、違和感を覚えなかった」と紹介する。
[画像のクリックで拡大表示]

 「ルナルナは女性が日常的に行っている月経周期の記録という習慣をアプリにした。こうしたアプリが効果を発揮するには継続してデータを入力することが肝心だが、それを啓蒙するまでもなかった。さらに使えば使うほどそのユーザーの月経日や排卵日の予測精度が高まる仕組みになっており、多くのユーザーが継続利用してくれている」とエムティーアイヘルスケア事業本部ルナルナ事業部事業部長の日根麻綾氏は語る。月経周期は女性の健康のバロメーターであるとともに、月経痛やだるさなど、月経に伴う症状は女性の敵でもある。予測される月経日をもとに、仕事や旅行の計画を立てる女性は少なくない。

 晩婚化・晩産化を背景に、女性が生涯に経験する月経回数が増えたり、「子供は妊活をして授かるものという認識が浸透した」(日根氏)ことも月経周期管理アプリのニーズを高めている。例えばルナルナでは、妊活から妊娠、出産までをサポートする有料サービスの利用者の約半数が35歳以上だ。従来は月経周期管理アプリを避妊目的で使うユーザーが多かったが、ここ5~6年で妊娠希望のユーザーが増えた。妊娠・出産を望む個人にとって月経周期管理アプリは手放せない存在になってきたといえる。