高齢者人口の増加に伴って、罹患者が増えることが予想される認知症。医療機関では現在、一人の患者に対してさまざまな検査を行うことで統合的に診断を行っている。

 しかし認知症検査の中には、評価者の専門知識や長年の経験を必要とするために実施が難しく、ごく一部の医療機関でのみ行われてきたものもある。こうした課題をテクノロジーによって解決する――。そんな動きが進んでいる。

AIで統合的な医師の診断を支援

 日本テクトシステムズは、AIを活用した認知症の診断支援システムの開発を進めている。現在、医師による認知症検査は、神経心理検査や画像検査などの定量的なデータと、表情や声に現れる定性的な指標を使って行われている。開発するシステムでは、患者の定量的なデータと定性的なデータの双方を使って、認知症かどうかをAIが判断する。医師はその判断を参考にしながら、統合的に診断を行うという使い方を想定している。2019年の実用化を目指す。

AIを活用した診断支援システム概要図(画像提供:日本テクトシステムズ)
AIを活用した診断支援システム概要図(画像提供:日本テクトシステムズ)
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 定量的なデータとしては、「ADAS(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale)」による神経心理検査とMRIによる画像検査を併用する。ADASは、個人差の大きい認知症において重要とされている経過観察を行うことができる検査。しかし、専門知識のある臨床心理士しか実施できないうえに、全165項目を集計・評価するために膨大な時間を費やす必要があった。そのため多くの医療機関では実施が難しかったという。

 そこで、ADASの診断支援に関しては、同社がかねて手掛けてきたシステム「SHINDAN-ADAS」を実装する。同システムは2011年に提供を開始しており、現在230の医療施設で採用されている。

「SHINDAN-ADAS」概要イメージ(画像提供:日本テクトシステムズ)
「SHINDAN-ADAS」概要イメージ(画像提供:日本テクトシステムズ)
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 ブラウザーからSHINDAN-ADASにアクセスすると、ADASの検査が指示されるため、それに従うことで簡単に検査を行えるようにした。各質問に対する回答も、画面に入力すれば自動で集計することができる。グラフ表示機能も搭載しているため、患者の症状の経過も一目で見られるようにした。

日本テクトシステムズ 代表取締役社長の増岡厳氏
日本テクトシステムズ 代表取締役社長の増岡厳氏
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 AIを活用した診断支援システムに実装するMRI検査の診断支援システム「SHINDAN-MRI」も開発を進めている。MRIで撮影した画像データを機械的に読影することを目指す。具体的には、脳を約130の部位に分け、それぞれの部位の体積と表面積、厚さを算出する。これによって、「各部位が経時的にどれだけ萎縮しているのかを定量的に見られるようにしたい」と日本テクトシステムズ 代表取締役社長の増岡厳氏は意気込む。

 定性的なデータを使った判断は、経験のある医師の判断をAIに学習させることにより実現したい考えだ。開発したシステムが名医と同じ判断をすることができるようになれば、「医師の診断に役立つツールとなるだろう」と増岡氏は見ている。