13種類のがんのマーカー候補が出そろう

 落谷氏らは、各臓器のがんにそれぞれ特徴的なマイクロRNAが複数存在し、がんの罹患によってそれらの血液中の量が変動することに着目。新たな疾患マーカーとしてのマイクロRNAの可能性を、国立がん研究センターのバイオバンクに保存された血清検体など、約4万3000検体を使って検証してきた(関連記事3)。今回、「13種類のがんについて、早期診断に向けたマイクロRNAの候補が出そろった」(国立がん研究センター研究所の落谷氏)ことを受け、臨床研究に乗りだす。マイクロRNAの候補は各がんにつき数個ずつ程度で、合計で100種類強に絞ることができたという。

国立がん研究センター研究所の落谷孝広氏
国立がん研究センター研究所の落谷孝広氏
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 血清検体を使った検証でこれまでに得られた結果は、驚くべきものだ。病期がI期やII期という比較的早期のがんを中心に検証を行い、多くの臓器のがんで「95%以上の検出感度が得られている」(落谷氏)という。特に、乳がんや大腸がんでは非常に確度の高い検出が可能になってきた。

 ただし、バイオバンクの検体は保存中に分解されるなどの影響を受ける可能性があることから、臨床研究では新たに採取したフレッシュなサンプルで効果を確かめる。落谷氏らの手法では現状、検出の感度は95%以上だが、特異度は90%前後にとどまっている。そこで臨床研究では健常者約400人をコントロール群として組み入れることで、特異度の向上を狙う。

 落谷氏らの成果などに触発される形で、最近ではマイクロRNAに関する研究が各所で盛んになっている。内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検(biopsy)に代えて、血液などの体液サンプルを使ってがんの診断や治療効果予測を行うリキッドバイオプシー(liquid biopsy)の手法として、マイクロRNAの検出を本命視する向きもある。

 AI(人工知能)のような、最先端の解析技術との相性が良さそうなことも大きな魅力だ。国立がん研究センターは2016年11月、がん患者の臨床情報や、ゲノム/エピゲノム/血液などの網羅的生体分子情報(マルチオミックスデータ)、さらには疫学データや文献情報までをAIで解析し、患者個々人に最適化された医療を実現するプロジェクトを開始。この中でも「マイクロRNAや血液検査の結果に基づくがんの早期診断システムの開発」がテーマの一つに選ばれた(関連記事4)。マイクロRNAによるがんのスクリーニングにAIを活用することで、高い精度の検出につながる可能性を示す結果が既に得られ始めている(関連記事5)。