患者の服薬管理によって8440万円分の残薬削減効果

 「健康サポート薬局という場合、健康サポートの役割を果たすのがなぜ薬局でなければならないのか。その理由を我々としては考える」(三津原氏)。その検証の一環として参加したのが、神奈川県の医療・健康情報管理アプリ「マイME-BYO(未病)カルテ」に、お薬手帳プラスを連携させた実証事業である(関連記事2)。「健康管理アプリ単体ではなく、薬剤師の介入という要素を加えて未病を見える化した」(三津原氏)ことがその特徴。結果として、参加者の8割が薬剤師のアドバイスによって運動を続ける意識が高まったと回答するなど「人の介入によって良い結果が得られる」(同氏)ことを明らかにできた。

 かかりつけ薬剤師の存在は、ポリファーマシー(多剤併用)や残薬の問題にも有効と考えられるという。日本調剤では2016年10月~2017年6月の9カ月間で、患者の服薬管理によって8440万円分の残薬削減効果を得た。特に、かかりつけ薬剤師の寄与による削減効果が大きいという。残薬調整をしたのが、かかりつけ薬剤師か勤務薬剤師かの違いによって、平均残薬調整額に差が出ることも明らかになった。薬局や薬剤師の「かかりつけ機能を高めることで、患者のアドヒアランスやアウトカムが向上し、医療費削減にもつながる」(三津原氏)と期待される結果だ。

 以上のような取り組みを通じ、ICT×薬剤師の効果は「これまでも経験的には分かっていたが、データとしても分かるようになってきた」と三津原氏は話す。処方箋に検査値のQRコードを併記し、薬歴に検査値を取り込めるようにするといった動きもあり、薬局には健康・医療分野のさまざまなデータが集まり始めた。「調剤薬局は、これまでは病気になってから行く場所だった。これからは健康・未病段階からの介入のためのデータが集まり、PDCAを回せるようになる。そこでは、AI(人工知能)の世界も十分に考えられる」と同氏は将来構想を語る。

 東京大学とはここに来て、ICT×薬剤師による介入が糖尿病の発症・重症化予防に与える影響に関する実証研究を始めた(関連記事3)。日本調剤のお薬手帳プラスを、東京大学が開発した自己管理支援アプリと連携させ、ここに薬剤師による服薬管理や生活習慣改善支援などの介入を加えてその効果を検証する。疾患の発症・重症化予防という医療の「より深い領域に突っ込み、薬局としての価値を高める」(三津原氏)のが狙いだ。「ICTは臨床現場に不可欠であり、そうなる。我々もこの分野で新たな提案をしていきたい」と三津原氏は話している。