かつてはゲーム機向けGPU(画像処理プロセッサー)のメーカーとして知られ、最近はAI(人工知能)や自動運転、ハイパフォーマンスコンピューティングなどの分野でも高い存在感を放っている米国半導体メーカー、NVIDIA社。医療にAIを活用しようという機運が高まる中、同社はこれを追い風と捉え、医療分野の開拓に本腰を入れている。

 昨今のAIブームに火を付けたディープラーニング(深層学習)では、NVIDIA社のGPUベースのコンピューティングプラットフォームは、業界標準に近い存在である。自らをAIコンピューティングカンパニーと称する同社にとって、ディープラーニングは「はやり言葉ではなく、経営の大きな礎といえるレベルになってきた」(エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部 マネージャー メディカル・ライフサイエンスビジネス責任者兼スタートアップ・技術パートナー支援担当の山田泰永氏)。

エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部 マネージャー メディカル・ライフサイエンスビジネス責任者兼スタートアップ・技術パートナー支援担当の山田泰永氏
エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部 マネージャー メディカル・ライフサイエンスビジネス責任者兼スタートアップ・技術パートナー支援担当の山田泰永氏
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 そんなNVIDIA社が、産業・自動車分野と並んで存在感を高めつつあるのが医療分野だ。同社が2017年5月に開催した開発者会議「GTC(GPU Technology Conference) 2017」。トヨタ自動車との提携など、自動運転関連の話題に沸いたこのイベントでも、陰の主役は医療分野だった。医療関連のセッション数は例年の2倍を超える50以上、米Mayo Clinicなどの有力医療機関から多数の発表が行われた。自社の一大イベントでのこの扱いは、医療分野を「非常に重視している」(山田氏)ことの表れに他ならない。

専門チームを立ち上げ

 NVIDIA社と医療の関わりは、これまでも浅かったわけではない。医療機器、特にX線CT装置や超音波診断装置などでは近年、GPUを搭載するケースが増えているという。

 画像診断装置では従来、FPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれる半導体で演算処理することが多かったが、演算の高度化に伴いGPUが必要になってきた。「X線CT装置では逐次再構成のエンジンとしてGPUが採用され、中上位機種の大半がGPUを使うようになった。超音波診断装置でも、カラードップラーなどの処理にGPUが使われている」と、NVIDIA社日本法人で医療・ライフサイエンス事業の責任者を務める山田氏は話す。

 だが、医療へのAIの浸透がもたらすインパクトはこれらの比ではないだろう。NVIDIA社はここに来て、米国内外で医療・ライフサイエンス分野の事業開発チームを発足。医療機器メーカーや医療機関、研究機関への働きかけを本格化させた。