アミューズメント施設のアトラクション、あるいは最新鋭の映像・音響設備を備えた映画館――。その空間に足を踏み入れた瞬間、そんな錯覚に襲われる。壁面には大型のフラットパネルディスプレー、天井からも複数のディスプレーが吊るされ、床には2台のロボットが鎮座。そんな空間全体を、有機EL照明の柔らかな光が照らしている。

公開した「Hyper SCOT」のプロトタイプ
公開した「Hyper SCOT」のプロトタイプ
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 日本医療研究開発機構(AMED)と東京女子医科大学、広島大学が2016年6月16日に公開した東京女子医大の「スマート治療室」は、メスを握る外科医の姿がそこになければ、手術室とは思えないような洗練された空間だ(関連記事1)。別名は「SCOT(Smart Cyber Operating Theater)」。未来の外科医が腕をふるうのは“シアター型”のサイバー空間になる。

 SCOTでは、手術室内の医療機器をそれぞれの機能や役割に応じてパッケージ化。それらを「OPeLiNK(オペリンク)」と呼ぶシステムで統合し、手術室全体をネットワーク化する。

 これにより、医療機器の基本データや術中画像、手術器具の位置情報、患者の生体情報などを集約。手術の進行や患者の状態を統合的に把握するとともに、手術をナビゲートしたり、機器の稼働状況を監視したりすることで、治療の精度や安全性を高める。手術中に集めたさまざま情報は、術中に起きた事象の相関関係を解析するためのデータベースとして、治療改善につなげていく。

 今回、東京女子医大に設置したのは「スマート治療室」の最終目標モデルのプロトタイプ。情報を統合的に収集・可視化するだけでなく、ロボットなどが支援する出力(操作)側もネットワーク化した「Hyper SCOT」と呼ばれるものだ。今後、機器の接続実証などを進め、2019年3月に完成させて同年夏に治療を開始する計画。当初の適用対象は悪性脳腫瘍などを扱う脳神経外科となる見込みだ。

 Hyper SCOTとは、いかなる空間なのか。6月16日の報道機関向け見学会で明らかになったその姿を紹介しよう。