内視鏡検査用スコープが咽頭部に触れると、瞼を閉じ、「痛っ」や「おえっ」と声を発する――。これは生身の患者ではない。医療シミュレーターロボットの動作だ。見た目や内部臓器の構造だけでなく、えずきや咽頭反射といった生体反応も再現。患者の苦痛にまで気を配るトレーニングが、ロボット技術の進化によって可能となる。

 内視鏡検査と気管挿管、喀痰吸引の手技をトレーニングできるシミュレーター「mikoto」。テムザック技術研究所(鳥取県米子市)と鳥取大学医学部、鳥取大学医学部附属病院が共同開発し、同院シミュレーションセンターに2017年中に導入する。他の教育機関からの受注も2017年3月に開始。参考価格は、3つの手技のトレーニングを行えるマルチタスクモデルが980万円、気管挿管のみを行うシングルタスクモデルが198万円としている(写真1、写真2)。

写真1 「mikoto」マルチタスクモデル
写真1 「mikoto」マルチタスクモデル
内視鏡検査と気管挿管、喀痰吸引を行うことができるシミュレーター。咽頭部に圧力センサーを搭載し、瞬きと声でえずきや咽頭反射の生体反応を再現する。
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写真2 「mikoto」シングルタスクモデル
写真2 「mikoto」シングルタスクモデル
気管挿管を行うことができるシミュレーター。気管と食道の先に、それぞれ肺と胃を模擬した袋が付いており、挿管して気道の確保を行えたかを目視で確認する。えずきや咽頭反射に当たる反応は再現していない。
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 mikotoは、これまでの“マネキン型”のシミュレーターや動かない臓器モデルとは一線を画す。というのも、「患者が苦痛を感じる反射や反応をロボット技術で再現した」(テムザック技術研究所代表取締役社長の檜山康明氏)からだ。開発に携わった鳥取大学医学部附属病院シミュレーションセンター長の中村廣繁氏(医学部副学部長、胸部外科学分野教授)も、「これまでにない新しいものができた」と評する。

「人体はかなり複雑だが、臓器モデルを作成するメーカーなどと連携して忠実に再現できるよう開発を進めていきたい」と話すテムザック技術研究所の檜山康明氏。
「人体はかなり複雑だが、臓器モデルを作成するメーカーなどと連携して忠実に再現できるよう開発を進めていきたい」と話すテムザック技術研究所の檜山康明氏。
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 人間の動的な反射や反応の再現は難しい。筋肉によって動いているものを「エアシリンダーやモーターなどの動作原理が異なるアクチュエーターで動かさなくてはいけないから」だと檜山氏は話す。mikotoは声と瞬きによって反応を再現し、従来のシミュレーターよりもさらに実際の患者に近づけた(動画1、動画2)。

 mikotoの口腔あるいは鼻腔からに内視鏡を挿入すると、咽頭部に設置したセンサーに一定以上の力で触れると、声で咽頭反射を再現する。上咽頭に触れると「痛っ」、中・下咽頭に触れると「おえっ」とえずき、同時に瞬きも行う。なお、実際の患者では舌根に触れることでも咽頭反射が起こるが、気管挿管の手技を行う際に邪魔になってしまうため、現状は中・下咽頭のセンサーで咽頭反射を再現している。