国立病院機構東京医療センター 救命救急センター長の菊野隆明氏
国立病院機構東京医療センター 救命救急センター長の菊野隆明氏
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 「良い医師とは、問題が起こったときに良い判断ができる者のことを言う。良い判断ができるようになるには、誤った判断で失敗した経験から、“落とし穴”を見つけなくてはならない。つまり、悪い判断によって数多くの失敗をした経験を持つ医師こそが良い医者になれる」。日々、救急医療の現場に向き合う国立病院機構東京医療センター 救命救急センター長の菊野隆明氏はそう話す。

 「ITヘルスケア 第10回記念学術大会」(2016年5月21~22日)で講演した菊野氏によると、日本医療機能評価機構に2009年に国内で報告された事故は946件。うち57.6%が「確認を怠った、判断を誤った、連携ができていなかった」といったノンテクニカルスキルによるものだったという。菊野氏は、冒頭の“良い医師”の定義を受けて、現代医療の問題を次のように指摘した。「誤った判断をした経験がなければ、良い判断をすることは難しい。一方で医療の現場では、経験としてでも“失敗”はあってはいけない。若い医師が“現場”でしか経験を積めないことが(医療が抱える)問題だ」。

 菊野氏と同じセッションで講演した国立病院機構東京医療センター 外科の西原佑一氏は、外科における若手教育の実態をこう指摘する。「これまでの教育は、“手術の方法は見て覚え、実際に手術を行い、経験を積む”という流れだった。しかし見て覚えることと実際に手術をすることの間には、大きなギャップがある。それを裏付けるように、2015年には『見て覚えるだけの教育では不十分』と訴える論文が米国消化器内視鏡外科学会の機関誌で発表された。見て覚えてから手術をするまでの間に、シミュレーションを活用した教育が望まれる」。