国立がん研究センター中央病院は2017年5月26日、働きながら治療を受けているがん患者の労働生産性の実態を、iPhoneアプリで調査する研究を始めた。がんの治療と生活の質(QOL)の関係を明らかにすることで、副作用管理や事業所における配慮のあり方など、療養環境を改善するための指標を構築することを目指す。

研究について説明する国立がん研究センター中央病院の近藤俊輔氏
研究について説明する国立がん研究センター中央病院の近藤俊輔氏
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 日本では毎年、約100万人が新たにがんと診断されている。このうち約1/3は就労世代の患者だ。仕事を続けながら治療を受ける患者が増えているものの、「抗がん剤治療に伴う副作用などで仕事を休みたいと感じたり、職場に行っても十分なパフォーマンスを発揮できないといった声を耳にする。仕事に行きたいのに会社から休むよう指示された、というケースも少なくない」(国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科/先端医療科の近藤俊輔氏)。

 こうした治療に伴う労働生産性(仕事のパフォーマンス)の変化は、がん患者のQOLの指標の一つになると考えられる。例えば、がんの治療がプレゼンティーズム(出勤しているものの、心身の健康上の問題から十分にパフォーマンスが上がらない状態)を引き起こせば、患者のQOLは大きく損なわれる。これに着目した調査は過去にも行われてきたが、その多くは治療が終わってから数カ月~数年後の状況を調べたもので、「治療中の実態は明らかにされていない」(近藤氏)という。

 国立がん研究センター中央病院の近藤氏らは今回、仕事のパフォーマンスの変化など、治療中のQOLをがん患者が自ら評価し、日々の結果を可視化したり、他者の結果と比べたりできるアプリを開発した。米Apple社の医学研究用オープンソースフレームワーク「ResearchKit」を用いて開発したiPhoneアプリ「がんコル(QOL)」がそれだ。

がん治療と労働生産性の関係を調べる(資料提供:国立がん研究センター)
がん治療と労働生産性の関係を調べる(資料提供:国立がん研究センター)
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 がんコルは、労働生産性や療養の質に関して、業界標準となっている3種類の調査(アンケート)を実装し、結果の可視化や分析を可能としたアプリ。具体的には(1)プレゼンティーズムに関する項目(7日および28日ごとに回答)、(2)QOLに関する項目(毎日回答)、(3)副作用に関する項目(毎日または7日ごとに回答)を備える。